谷本:TEDもそうですが、優良なコミュニティであったり、セットされた舞台装置の上に立てる人も限られていますよね。信頼に値して、優秀であれば必ずしも立てるというものでもないですよね。実は、見落とされている「選ばれし者に共通する要素」があるんじゃないかとも思います。
尾原:それは、その人にとっての舞台、波紋を広げたいこと、誰に伝えたいかが明確であるということだと思います。
例えばAKBは、小さなステージで熱狂を重ね、それを2〜3年積み上げたから、蓋をあけた瞬間にオリコンチャート1位など世の中を動かす熱さになった。だから、僕は大きい舞台に立たなくても、小さな仲間の中で熱量をためていくことの方が大事だと思う。小さな熱狂を積み重ねることが重要なんじゃないかと。
谷本:なるほど。必ずしもムーブメントが起こりやすい最高峰の舞台に上がることを意識しなくてもいいわけですね。
尾原:たとえば、社会起業家というのは、事業が軌道にのるまでになかなか時間がかかってしまうものです。でも、社会起業家になるほど優秀な人材であれば、言い方があまり良くないですが、他のことをやった方が儲かるわけです。
ということは、社会起業を選ぶような優秀な人たちが、即物的に利益の方になびくことなく、社会のために地道にやっていけるための一番大事なアクセラレートは、スキルを付与するようなことではなく、お金などの他の誘惑から心の沸騰を振り切るくらいの熱量をためていけることだと思います。社会起業家は頑張って、熱をためないと途中で潰えてしまう。誘惑の重力に負けてしまうこともあるということです。
谷本:だから、熱量をためるための装置なり、環境が必要なわけですね。
尾原:最初から大きな場所に立たなくてもよくて、小さく共感する人たちと煮詰めていると、必ず仲間が集まってくるんです。むしろ小さく始めた方がいい。ただ、小さく始めた時に大事なことは、自分の熱意を二人目が必ず伝搬してくれると恐れずに出すこと、そして最初に伝搬してくれた人達を尊重して焦らずに大きくしていことなんです。
尾原和啓(おばら・かずひろ)◎I執筆・IT批評家。京都大学院で人工知能を研究。マッキンゼー、グーグル、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立上げ・投資を歴任。現在13職目 、シンガポール・バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。近著『モチベーション革命』はアマゾン ビジネス書1位。