ビジネス

2017.10.14

今そこにある「仮想通貨バブル」という危機

仮想通貨投資会社ポリチェーン・キャピタルの共同創業者、オラフ・カールソン=ウィー


昨年9月に彼は退社し、暗号通貨専門のポリチェーン・キャピタルを創業。400万ドルの開業資金はウィキハウの創業者であるジャック・ヘリックや、Yコンビネーターのパートナーだったガリー・タンらから調達した。コインベースで3年強の経験を積んだ彼は、この業界の賢人のように見られているのである。

暗号資産のムーブメントは、ビジネスや生活、利殖といったほとんどすべての面の民主化を進める。だがドットコム・バブルの頃に友人や家族向けの株の割り当てがあったのと同じように、カールソン=ウィーがこれまでに手がけた13件の投資は、大半がICOに先立って破格の安値でなされている。投資先は前出のイーサリアムやゴーレム、予測市場の「Augur」、暗号通貨の取引プロトコルの「0x」、イーサリアムと競合する「Tezos」など。

彼は気ままにトレードするよりも、むしろ長期的な投資姿勢を取っている。しかし、市場が狂乱状態になった時には、深い知識と迅速な判断力が莫大な利益をもたらすことになる。

新たな“西部開拓時代”の到来

私たちはこれからどこに向かうのだろうかー。カールソン=ウィーは明確なビジョンを持つ数少ない人物の1人である。彼は、基盤となるようなプロトコルと、データストレージやコンピューティング・パワー・サービスのようなインフラが真っ先に構築されると考えている。

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illustration by Megapont/Folio

「僕が考える未来では、コンピュータは独自のメモリや帯域幅、インターネット接続を内蔵していません。すべてはアウトソースされ、使った分だけトークンで支払うようになるでしょう」と、彼は語る。

「インターネットのパケットもストレージもほしい分だけその場で払えばいいのです。そうしたものがすべてのデバイスに内蔵されたまま、ほとんど使われないということはなくなります」

つまり、「クラウド・コンピューティング+シェアリング・エコノミー+中央銀行」という図式か。ただ、そうなるまでには多くの人が“ケガ”をするかもしれない。部分的には実用的でありながら、特定の管理者に従属しない仮想通貨は、厳密には有価証券とはいえない。一部のトークン開発者は、自社のコインが有価証券かどうか、という問題を回避するために、税率が低く規制の緩いシンガポールやジブラルタル、スイスのツークといった場所に事業の本拠を置いてきた。

当然、インサイダー取引や不正な契約も横行している。メタステイブル・キャピタルのナバル・ラビカント(エンジェルリストのCEO兼共同創業者)は、あるトークンの発行者からこう言われた。

「ICOでトークンを買って、価格を維持することに同意してくれたら、30日後に残ったトークンを安値でこっそり売りますよ」
 
ウォール街ならば、これは重罪だ。だが、西部開拓時代にも等しい暗号通貨の世界では果たしてどうだろうか?

「この種の協定は至る所で結ばれています」と、ラビカントは言う。

米証券取引委員会は、「業界は投資家を保護すべき」と言い続けてきた。しかし、サブプライム問題の前後のドタバタぶりを見る限り、彼らが暗号通貨を効果的に規制できるとは思えない。

「ペテンは極めて高度で複雑なのでソースコードでも読まない限り見破れません」と、ラビカントは話す。

仮に規制当局がコードを読めても、結果は同じかもしれない。カールソン=ウィーは言う。

「僕の(米国内の)銀行口座が閉鎖されたら、ロシアの銀行に口座を開いて、元の銀行のクレジットカードで支払いを続けるというわけにはいきませんよね。でも、ビットコインのウォレットのプロバイダーが閉鎖されたら、そのビットコインを文字通り一瞬で移送できるのです。『よし、ビットコインはロシアに移した。今度はロシアの取引所の売り出しに参加して、そのトークンをロシアのウォレットに保管しよう』という感じですよ。グローバルに見れば、これを規制するのはモグラたたきのようなものでしょう」

課税の問題についても同じことが言える。

そうしたこともあり、今後もさまざまな破綻やマウントゴックス型の大失態が発生するだろう。そして身を守る手立てがほとんどない領域でギャンブルを行っている人々の金が何百億ドルも失われるだろう。一方で賢明な投資家は順調に運用を続けるはずだ。彼らが警戒すべきは自分自身の傲慢さのみである。

「現状のトークンの売買は狂気の沙汰だと、誰もが思っています」と、カールソン=ウィーは語る。

「いったいどれだけ大きな問題になるのか……。僕たちにはまだまだ見通せませんね」

文 = ローラ・シン イラストレーション = メガポント / フォリオ 翻訳 = 町田敦夫

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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