6月12日には新たな準備金型仮想通貨の創設を目指す「Bancor」が、発行するトークン全体の50%を売り出し、3時間足らずでICOの最高記録となる1億5300万ドルを調達した。その翌日には「IOTA」がマイクロペイメント用に設計したトークンを公開し、瞬またたく間に企業価値が18億ドルに上昇。1週間後にはメッセージング・アプリ「ステータス」が、ICOで1億200万ドルを集めた。ICOは、脆弱なビジネスに法外な評価額を獲得する機会を与えている。
これらの先駆者たちは間違いなく、従来と比べて優れた資金調達法とネットワーク効果の創出法を見つけ出した。シリコンバレーでベンチャー投資家に媚こびを売ったり、公開市場で規制当局とやり合ったりする必要などない。自分のアイデアにトークンを付加すれば、投機家がそれに金を投じ、その後に値を吊り上げることができるのだ。
これまでにICOで調達された資金の総額は8億5000万ドル以上に上る。その中にはブラウザ開発企業ブレイブ・ソフトウェアの「ベーシック・アテンション・トークン」(ブロックチェーン技術を使ってデジタル広告をブロックするサービス。24秒間で3600万ドルを吸収し、1億8000万ドルの企業価値を生み出した)のように高尚なものもあれば、より庶民的な「レジェンズ・ルーム」(ラスベガスのストリップクラブでVIP待遇を受けられるコイン)もあった。
ーどこかで聞いた話だと思うなら、それは実際に聞いたことがあるからだ。
実体よりもコンセプトが先行する企業、投機に走るデイトレーダー、過激なボラティリティ、ダッチ・オークション、無から瞬時に生み出される大金……。これらはいずれもドットコム・バブルの頃に見られたものである。しかし2000年にそれが弾けるや、ネット株の時価総額のうち1兆8000億ドルが蒸発した。単なる予測市場のコンセプトが短期間で30億ドルの企業価値を得たという事実をよく考えないと、歴史は繰り返されるだろう。
とはいえ、我々はすでに初期の段階は過ぎている。ドットコム・バブルは確かに常軌を逸していたが、一方ではアマゾンやグーグル、イーベイのような強靱な企業を誕生させた。愚かなデイトレーダーやIPO中毒者は悲嘆に暮れたが、早くから参入した賢明な者たちはとてつもなく裕福になった。この歴史がまた、今まさに繰り返されているのである。
暗号資産、3つのカテゴリー
暗号通貨の働きを理解するには、コンピュータゲームになぞらえるのが一番わかりやすいだろう。仮想世界があり、そこではバーチャルな通貨を入手できるとしよう。その通貨はゲーム内でもらえる報酬(武具やライフ、衣類など)と交換できる。仮想通貨もそれと同じ要領だが、その根本にはブロックチェーン技術がある。そして(理論的には)その通貨を現実の物品に替えたり、発行主体が提供するサービスを受けるのに使ったりすることができる。
多くのICOの説明書類は、あたかも複雑なコンピュータゲームのルールブックのようだ。例えば、グノーシスのトークン「GNO」を保有する人々は、1単位1ドルの第2のトークン「WIZ」を手に入れる。これがプラットフォームの手数料の支払いに充てられる。これは巧妙な仕組みになっており、WIZはGNOsを一定期間、自発的に“凍結”することによって得られるため、グノーシス全体の価格が維持されるのだ。
こうしたモデルはさほど珍しいものではない。プラットフォームの大半はトークンの数に上限を設けており、利用者が増えるとその需要が増し、ひいては価格が押し上げられる。利用者が増えるほどサービスの価値が高まるネットワーク効果は、マルチ商法と同じようなインセンティブを生み出す。仮にフェイスブックがトークンを出した場合を想像してほしい。友人を説得してフェイスブックに加入させるだけで、あなたはネットワーク全体と、手持ちのトークンの価値を高められるのだ。
「私たちは一元的な管理者を持たない、新たなデジタル経済をクラウドファンディングしているのです」と、ビットコインに投資する初の公募ファンド・マネジャーとなったクリス・バーニスキーは言う。彼は暗号資産を3つのカテゴリーに分類する。
1つ目は、ビットコインのような「暗号通貨」や、「Monero」「Zcash」のような追跡不能のデジタル通貨だ。
2つ目は、一元的な管理者のいないデジタル・インフラの建設資材になると目される「暗号コモディティ」。ゴーレム・ネットワーク・トークンは、遊休状態にあるコンピュータの処理能力を貸し借りするネットワークで稼ぐことができる。あなたが寝ている間、どこかの起業家や企業に機械学習用のアルゴリズムをトレーニングできるよう、コンピュータの処理能力を貸し出すことでコインを稼げる。
こうした暗号コモディティの中でも特に注目されているのが「Filecoin」「Sia」「Storj」といった一元管理者を持たないデータストレージ用トークンだ。これらは「アマゾンS3」の競合に当たる。
そして3つ目が「暗号トークン」。これは、「仲介プラットフォームのないウーバー」のようなものだ。いわば、乗客とドライバー(または自動運転車)がピアツーピアでつながったネットワークである。ここでは取引に必要な暗号トークンを互いに払ったり、受け取ったりする。