元駐日大使が語る、日本復活の処方箋

ジオデシック・キャピタル ゼネラル・パートナー、ジョン・ルース(photograph by Saori Fujii)


日本のもっている強みのひとつ。それはロボット技術だと思います。日本はこの分野において素晴らしい進化を遂げています。この日本のロボット技術や製造業の強みを、シリコンバレーのソフトウェアという強みと組み合わせ、ビッグデータやAIなどの新分野に躍り出たらいかがでしょうか。

恐らく、このふたつはダイナマイトのような強力な組み合わせになるはずです。また、シリコンバレーは日本文化にも大変興味をもっています。スティーブ・ジョブズが魅了されたように、日本のプロダクトやデザインの美しさ、ディテールへのこだわりは、いまもシリコンバレーの人たちの心をつかんで離しません。そこも日本の強みのひとつでしょう。
 
もし、私が日本のスタートアップ企業、若い企業の成長についてアドバイスを求められたなら、何よりもまず「アメリカ、シリコンバレーに進出しろ」と申し上げると思います。それは、世界一巨大なマーケットにアクセスできるだけでなく、若い企業がどのように成長し、発展していくのかを間近で見、知ることができるからです。

例えばイスラエルの事例が参考になるかもしれません。イスラエルといえば、日本の四国ほどしか面積がなく、人口も600万人という小国です。しかし、いまやハイテク産業が盛んで、世界屈指の技術大国、IT大国などと呼ばれています。そんなイスラエルは国内市場が小さいからこそ、米国を中心とする国外マーケットを積極的に拡大し、事業展開しました。

また、失敗を許す文化も特徴のひとつで、ここも日本は学ぶべきポイントでしょう。シリコンバレーでも、失敗は失敗ではなく、次の挑戦のための学習機会という意味でとらえられています。

日本は世界3番目の経済大国ですし、国内のマーケットも十分な大きさがある。外に出ていくというインセンティブが働きづらいことは確かです。しかし、「危機感」は変革のもと、成功のもとなのです。そういう意味において、日本の高齢化問題はひとつの利点になるかもしれません。

例えば、AIやロボットなどの分野に対し、アメリカでは仕事を奪うことになるのではと懸念されています。しかし、ここ日本では人口が減っているわけですから、テクノロジーによる生産性拡大、効率化を進展させることは緊急課題です。この危機感は日本にとって大きなアドバンテージになるでしょう。私が日本に対して楽観的なのはこのためです。日本の起業環境は次の10年、飛躍的に拡大するに違いありません。
 
日本がかつてのようにイノベーション大国になるためには、デジタル変革を実用レベルで考えることも重要です。そのために、すべての会社にその変革の責任をもつ最高デジタル責任者(CDO=Chief Digital Officer)を設けたらいかがでしょう。

また、大企業はスタートアップ企業とパートナーシップを組むこと。これによって、ベンチャーがもっている大企業を革新させるようなテクノロジーを手に入れることができますし、また何より、起業環境を社内につくることができます。

そして、最後にこれだけは言わせてください。日本は自国がもつ力を決して過小評価してはいけません。


ジョン・ヴィクター・ルース◎Geodesic Capital ゼネラル・パートナー。Wilson Sonsini Goodrich & Rosati法律事務所元CEO。元駐日米国大使。ソニー、セールスフォース等社外取締役の他、三菱UFJフィナンシャル・グループやトヨタ・リサーチ・インスティテュートのアドバイザリーボード職も務める。

構成=谷本有香

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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