私が駐日大使だったのは、オバマ政権の2009年から2013年。激動の期間でした。東日本大震災への対応はもちろん、日本の政治が自民党から民主党、そして再び自民党が政権復帰を果たすという転換期でもありました。
日本滞在中に全国47都道府県を訪れ、素晴らしいイノベーションがあちこちで起こっていることを再確認し、私は「日本は再び『スタートアップ大国』になれる」と確信しました。日本とアメリカは、世界で最もイノベーティブな国です。しかし、日本とシリコンバレーという地のつながりは、現在十分深いとは言えません。
だからこそ、私はプロフェッショナルとして、残りのキャリアを「シリコンバレーと日本の懸け橋」構築にささげたいと思いました。そこで、三菱商事が共同パートナーおよびリード投資家として参画したジオデシック・キャピタルというベンチャーキャピタルファンドを立ち上げることになったのです。
考えてもみてください。第二次世界大戦後、日本は世界の誰もが認め、憧れる、世界一起業家精神を発揮した国です。実際に、ソニー、ホンダなど、次々と世界を変える企業が生まれるた、まさに世界最大のスタートアップ大国でした。そして、日本から数々のイノベーションが生まれたのです。
その日本から再び世界に革新を起こしていくために、シリコンバレーと日本をつなぐ。そこに私たちジオデシック・キャピタルの役割があるのです。そのために、3つのアプローチを取ります。
1つ目は、未来のアイコニック企業、つまり、アメリカの最良テクノロジー企業に投資し、日本に紹介します。中でも注目しているのはITソフトウェア企業です。ただ、彼らに投資したいという企業は山ほどあります。
だからこそ、投資先に付加価値を与えるために、日本戦略の手助けをする。なぜなら、シリコンバレーの企業は日本市場への参入という面ではまだ発展段階だから。これが2つ目のアプローチです。
そして最後、ここが最も重要なのですが、私たちは投資元の日本企業が、シリコンバレーのエコシステムの一部になるための「窓」になりたいと考えています。日本企業のシリコンバレーへの戦略的アクセスの支援、シリコンバレーでのネットワーク発展の手助けを通じ、日本企業の長期的なパートナーとなることを目指しています。
シリコンバレーは何事においても動きが非常に早い一方、日本はより慎重に行動し、リスク回避思考も強い。ですから、私たちファンドは、シリコンバレー側に対して根気よく働きかける役割も担っていきます。
私自身、数多くのイノベーティブな企業を見てきて思うのは、腰を据えて企業とパートナーシップを発展させていくということが、イノベーション創出において非常に重要だと考えるからです。