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2017.09.21

サハリンはなぜ今「ベビーブーム」なのか?

サハリンでは、どの町も屋外で遊ぶ子供たちが多かった。コルサコフの稚内行きフェリーの見える展望台にて。

今年6月、サハリン東海岸の港町ホルムスクにある旧真岡王子製紙工場跡に潜入し、撮影していたときのこと。ふたりのロシア人少年がいきなり廃墟の中に現れた。

見慣れぬ外国人がいるのを見て、近づいてきたようだ。彼らにとって、そこは小さな頃から勝手知ったる遊び場らしい。まるで「こっちも面白いよ」とでもいうように手招きし、道先案内人となって奥まで連れていってくれたのだった。


中学生のニコライくんと2歳年下のイーゴリくんは、この工場廃墟の周辺に建つ団地の住人だ。

サハリン南部(樺太)が日本領だった頃、王子製紙はいくつもの工場を建設した。日本時代は真岡と呼ばれていたこの町では、大正8年(1919年)に操業を開始。戦後もしばらく稼動していたが、ソ連崩壊後の1990年代半ばに停止している。

ホルムスクは現在、人口2万8000人ほどの小さな町だが、子供たちが外で元気に遊んでいる姿をよく見かけた。サハリン州では5月が卒業シーズンで、6~7月は夏休み。そのせいもあったろう。だが、街角で遊ぶ子供の無邪気な姿に癒されるといった体験は、かつてはアジアの発展途上国の話だった。ところが、最近は経済成長によってアジアの都市にはビルばかりが建ち、子供が安心して遊べる場所は激減。戸内に閉じこもる子供たちが増えている。それだけにサハリンで見た光景は新鮮だった。

サハリンの子供たちの元気な姿を見ていると、いくつかのことに気づく。ロシアの1人当たりの名目GDPは世界70位の8928ドル(2016年)。日本の4分の1にすぎず、決して裕福な国とはいえないが、彼らの着ているものは貧しさを感じさせることはない。

面白いのは、男の子は地味なウインドブレーカー姿でも、女の子はフリルの付いたミニスカートや水玉柄など、おしゃれさんが多いこと。これは万国共通なのかもしれないが、安価な中国衣料が世界中に大量に出回った影響は、極東の果ての小さな田舎町にも見られる。


ホルムスクの海浜公園で出会ったふたりの少女はお揃いの猫耳カチューシャを着けていた。

さらに目についたのは、小さな町ほど自転車に乗る子を多く見かけたことだ。

冬季は長く氷雪で閉ざされる厳寒の地、サハリンだけに、6月の好天に恵まれた日には、小さな子供まで自転車に乗りたくなるのは当然だろう。町の自転車ショップには色とりどりの新車が並んでいた。これも、中国のシェアサイクルの推進で大量生産した安価な自転車が周辺国に流れているからに違いない。

ベビーカーを押す母親の姿もよく見かけた。これはサハリンに住む韓国系や非ロシア系の先住民族の人たちも同様だった。


ローラースケートを履いた女の子は、ベビーカーの中にいる弟を見守っている。サハリン鉄道最北駅のあるノグリキの公園にて。

「サハリンには子供が多い」という見聞は、今年7月の「ビザなし交流」で北方四島を訪ねた朝日新聞の記者も指摘している。

「国後島の人口は約8千人で、四島の中で最も多い。7日、市街地の古釜布(ふるかまっぷ)では、ベビーカーを押したり子どもの手を引いたりして歩く母親の姿が目立った。『過疎化、高齢化』というイメージとは違い、インフラ整備が進む島はいま『ベビーブーム』だという」(「北方領土、活性化へ期待感 ビザなし交流」朝日新聞2017年7月14日)
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文=中村正人 写真=佐藤憲一

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