確かにコーヒーの方がドーナツより売り上げはいいかもしれないが、ダンキンドーナツというブランドが他の店と違うところは、コーヒーとドーナツを一緒に提供できるところにある。わざわざその差異性を否定してしまえば、特に新規市場においてブランド力は弱まるだろう。
ビジネス戦略の面から言えば、ドーナツから他に軸足を移したい考えは理解できる。飲み物に比べてドーナツは顧客の購入頻度も店側の利益も少ない。しかしブランドの観点から見ると、同社の飲み物はブランドのけん引役として、ましてやブランドを差異化するための主役としての力はない。
もちろんダンキンドーナツのコーヒーはとても人気がある。2015年の「米国顧客満足度指数レストラン報告書」では、スターバックスを負かしたほどだ。特に米国北東部では、スターバックスより味がマイルドで主流派とされるダンキンドーナツのコーヒーが熱烈な支持を得ている。
しかし西海岸に向かうにつれ、競合は激しくなる。不動産会社のレッドフィン(RedFin)によれば、コーヒーショップの数が多い都市トップ5のうち4つが西部の都市(サンフランシスコ、シアトル、ポートランド、オークランド)だ。
この地域で幅をきかせるのはスターバックスだけではない。ピーツ(Peet’s)やフィルズ(Philz)は地元で人気だし、ブルーボトルコーヒーやサイトグラスのようなコーヒー専門店にも熱烈なファンがいる。
ダンキンドーナツはこうしたブランドと比べ、より主流なブランドとしての魅力があるが、主流派顧客層にアピールするには、コーヒーとドーナツを共に提供してきた名前で勝負する方が受け入れられやすいだろう。ドーナツは、ダンキンドーナツの主流派としての立ち位置をさりげなくも強力に思い起こさせてくれる。
確かに、既に多くの人々がこのブランドを「ダンキン」と呼んでいるし、同社自身もキャッチコピーの中でこの略称を使っている。しかし、公式ブランド名まで短縮する必要はない。