ザッカーバーグが支援の児童教育団体「10BH」が担う米国の未来

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8月のある日曜の午後、カリフォルニア州イースト・パロアルトの住宅地。パステルピンク色の一軒家の前で、緑の角帽と卒業ガウンをまとった5歳児たちが大人しく記念写真の撮影に応じている。彼らは「10 Books A Home」(以下10BH)という教育系NPOで、キンダーガーテンに進むためのプログラムを修了したところだ。

計55人の子供たちは全員が低所得家庭出身、多くが英語以外の言葉を第一言語に持つ。彼らはこの2年間、「ロールモデル」と呼ばれる10BHのボランティア家庭教師から読み書きや数え方、そして新しいことを知る楽しさを学んできた。約半数はプリスクールに通いながら、10BHのプログラムを受けた。(註:米国のキンダーガーテンは小学校に進む準備を行う1年間の課程。小学校に付属していることが多く、一部の州では義務教育に含まれる。プリスクールはキンダーガーテンに入る前の1〜2年間で、カリキュラムや運営形態は園によって大きく異なる)

ロールモデルは毎週1時間、各家庭を訪れ、子供と一緒に過ごすと同時に保護者にも10BHの教育メソッドを伝授する。そのメソッドとは、子供の興味関心を学習の軸にすることだ。

修了生の一人、ジャレツィ・ルイスは2年前にロールモデルのシェリル・ヘックマンと初めて会った日、ヘックマンが持参した数々のおもちゃの中からキッチンセットと電車を選んだ。やがてジャレツィの興味はおもちゃから本に移り、特におしゃれな洋服やインテリアが大好きな少女が主人公のシリーズ「Fancy Nancy」を好むようになった。

ジャレツィには年上のきょうだいが3人おり、全員ともプリスクールに通ったが、10BHのプログラムに参加したのは彼女だけだ。母親のグロリア・ルイスは「上の子たちの時と比べて、ジャレツィはキンダーガーテンに進む準備がかなりできている」と話す。

シリコンバレーにある貧困地帯

今年キンダーガーテンを修了したフィシラウ・トゥイプロトゥは、3歳の時に10BHを始め、10BHの創業者であるポール・チェボー3世とのキャッチボールを通して、完全な文で話す方法や数え方を身につけた。それ以来、母親のアグネスは、周囲の5家族に10BHを勧めている。

シリコンバレー関係者らが暮らす高級住宅地のすぐそばに位置しながらも犯罪率と貧困率が高いイースト・パロアルトでは、学力が学年水準に達していない子供が多い。そんな中、10BHの修了生たちは学年水準あるいはそれ以上の成績を収めている。

10BHのモットーは、子供の自発的な学習意欲を引き出すこと、すなわち「内発的学習動機づけ」(Intrinsic Learning Motivation、ILM)だ。ILMとは賞罰や義務ではなく、子供本人の好奇心や興味によって学習動機がもたらされることを指す。
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編集=海田恭子

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