ビジネス

2017.08.05

GINZA SIXのキーパーソンが描く「豊かな消費」の未来図

写真 = 網中健太、吉野洋三


小林:デベロッパーとしての森ビル、世界的なブランドであるLVMH、事業プランナーとしての住友商事、そしてリテーラーとしてのJ.フロントリテイリング。この4社がそれぞれの知見とノウハウを融合させて、世界に冠たる商業施設を銀座に作ろうとしたわけです。なので、施設のコンセプトやどのような建物にするのかということについては、4社で時間をかけて、何度も話し合ってきました。

山海:4社のトップが集まってGINZA SIXの事業の方向性について語り合うステアリング・コミッティという枠組みを作り、協議を重ねました。2013年から始めて、3カ月に1回程度のペースで計18回。多忙な方たちがそれだけの回数集まって、今後について徹底的に協議するというのは、なかなかないことだと思いますね。

栗原:我々は様々な会社と一緒に再開発事業を進めていくのが本業なのですが、業種の違う複数の会社が対等な立場で協議してプロジェクトを進めるという経験はなく、どうなるのか正直想像がつきませんでした。しかし、考えていた以上に話し合いはスムーズに進み、大きな方針を固めていくことができました。

J.フロントリテイリングはブランドを始めとするリテーラーや小売業の方々とのネットワークが非常に強いし、LVMHには世界的なラグジュアリーブランドの立場から、またグローバルな視点からの知見、アドバイスをいただいた。住友商事は事業の成立性、組み立てについて的確な指摘をいただき、我々は開発のノウハウやプロモーション、アートの組み込みなどを得意としています。

4社それぞれの強みが異なり、互いに補完し合うことができたからこそ、GINZA SIXのプロジェクトを前に進めることができたのだと思います。ステアリング・コミッティがトップ同士が本音ベースで語り合える場として機能したことも大きかったですね。

山海:とはいえ、松坂屋跡地の周辺の街区を巻き込んで規模を拡大するという点は、森ビルなくしてはできなかったことだと思います。

栗原:地権者の承諾を得るのは、それなりに苦労はありました。なんといっても銀座ですから、皆さんビルのオーナーで、容積率もきちんと使って、収益も上げている。そこを取り壊すわけですから、それ以上に権利が返還される物件にするということを約束できないと合意は得られません。

また、銀座はすべての通りに商店街の連合会があり、皆さん古くから銀座で商売をされてこられた方々で、銀座の街を非常に大事にされています。その方々の考え方と、我々が志向するもの、そのすり合わせを行う話し合いは、時間をかけて丁寧に進めましたね。

小林:我々としても、銀座松坂屋という名前がなくなることについて、寂しさがなかったとは言いません。それだけの歴史がある店でしたからね。しかし、百貨店という業態に固執していたら、GINZA SIXのような、オフィス機能や観世能楽堂のような文化施設も備えた革新的な複合施設を作ることはできなかった。我々は、店舗を核として地域とともに成長していくアーバンドミナンド戦略をとっていますが、今回のGINZA SIXはまさに銀座の街と共にいかに発展していくかを考えました。

栗原:森ビルは「東京の磁力を引き上げる」ことがミッションの会社です。今は都市間競争の時代で、経済や社会の発展の元となっているのは国家より都市。そして銀座は東京のまさに中心地です。銀座の魅力を高めることが、東京、ひいては日本に人を引き付ける磁力を高めることになる。そういうマインドでこのプロジェクトに取り組んだからこそ、商業だけでなくオフィス機能や文化施設、屋上庭園や観光センターまで融合した複合施設という発想も生まれました。

そして4社で共同して作り上げたのが、「Life At Its Best 最高に満たされた暮らし」というコンセプトであり、「Where Luxury Begins世界が次に望むものを」というブランドスローガンでした。


森ビル執行役員の栗原弘一氏

山海:コンセプトにもスローガンにも共通しているのは、人々の生活を豊かにする真のラグジュアリーを追い求めていく姿勢です。これまで日本では、個人向けラグジュアリー関連の商品は7、8割がた百貨店が取り扱ってきました。これは国際的に見れば少し特殊で、グローバルには路面店やショッピングモール、空港など、もっと多様なリテールフォーマットがあります。

それを考えれば、日本のラグジュアリーリテールはもっと様々なチャレンジができる余地があるはず。GINZA SIXがその先駆者となれるかどうかは今後の運営次第ですが、一つのモデルとなればいいと思いますね。
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文 = 衣谷 康

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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