ビジネス

2017.06.24 10:00

「一流大学よりも入るのが難しい学生寮」の可能性


寮費は無料で、企業がそれを支払う。50社でひとりの4年を賄ってもいいし、5社で10人を賄ってもいい。とにかく、優秀で可能性のある50人の寮生を4年間ウォッチし、それがすなわち就職試験になるという寸法だ。

費用は単純にひとり30万円として、50人で月額1500万円、1年で1億8000万円(ちなみにちょっとしたテレビ番組1本、またはラジオのJFN38局すべての月額放送権を買うと1200万〜1500万円ぐらいです)。50人の若者との関係を4年間で徹底的に築き上げ、自社の商品開発やリサーチに参加してもらったり、人材確保になったりすると考えれば、意外と投資メリットはあるのではないでしょうか。

未来をつくる大人の責任
 
僕がこういう考えに至ったのには、ふたつ理由がある。

ひとつは僕自身が高校時代に全寮制の学校に通っていたこと。1年生のときは縦割りで、1部屋に3年生3人、2年生3人、1年生4人が暮らしていた。1年坊主は実にこき使われる。同部屋の先輩のために買い出しに行ったり、寮監に見つからないようにラーメンの出前を頼まれたり。当然タバコや酒といった悪いことも教わるし、いまの親なら裁判を起こしかねないしごきもあった。

でも、同学年の仲間たちとその理不尽さに文句を垂れながら、仲良くワイワイと過ごす日々は、まぎれもなくいい時間だったし、大切なことをたくさん学んだ。絆、人として守らなければいけないこと(掃除をきっちりやるとか)、人が必死で何かを学ぶ姿を見て知る自分の限界……。他者を見て我が身を振り返ることのできる寮生活は、僕の後年の生き方にとても影響していると思う。
 
もうひとつは、東北芸術工科大学の企画構想学科で4年間教えていた学生が10人、いま僕の会社のスタッフになっていること。4年間自らの目で彼らを見てきたので、面接の必要がなかった。書類選考、数度の面接などを行うよりも、学生の4年間の暮らしに触れるほうが、自分の会社のカルチャーに合うか合わないかがよくわかる。いわば、先に提案した50人選抜の学生寮は、贅沢だけど「確実な面接」なのだ。
 
この四半世紀、僕たちの生活がこれだけ様変わりしながら、就職活動の風景だけは変わらないというのは本当に解せない。特にリクルートスーツは許せない(笑)。

東北芸術工科大学でも服や化粧に関する指導があり、企業説明会に行くことを勧められる。僕はよく大学の総務から「企画構想学科の学生はちっとも説明会に行かない!」と叱られるのだが、おそろいの紺スーツに身を包み、判で押したように同じようなことしか喋らない「個性を失ったブロイラー」のような学生に企業は魅力を感じるのだろうか。そろそろ新しいリクルートのかたちを探すべきなのではないかと思うのですが。

18〜22歳までの多感な時期に、おもしろい大人、影響力のある大人と出会えるのは幸福なことだ。「未来をつくるのは若者たち」というけれど、実際に未来をつくるのは「その若者たちに接する大人たち」である。彼らに何を気づかせ、どんな環境をつくってあげられるか、大人には責任があると僕は思う。

有意義なお金の使い方を妄想する連載「小山薫堂の妄想浪費」
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イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.35 2017年6月号(2017/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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