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2017.05.12

インフレ目標達成に「財政政策」は必要か?

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成長率でみても、失業率でみても、日本のマクロ経済状況は悪くない。ただ、インフレ率0%近くで、2%のインフレ目標達成は見えてこない。


内閣府が3月8日発表した2016年10〜12月期における成長率(対前期比、年率換算)の第2次速報(改定値)は、1.2%。16年を通じて、1.2〜2.2%のプラス成長を継続することができた。このような傾向は1990年代半ばから続いている。この成長率を「力強さに欠ける」とみるか「これが日本の実力だ」とみるかは、意見が分かれるところだ。

10年代に入って、日本の20〜64歳人口は、毎年1%超の減少が続いている。いうまでもなく、ベビーブーム人口が定年を迎え、他方、新成人の人口は、長く続いた少子化の影響で、極端に少数になっているからだ。労働人口の減少は、そのまま、経済成長率にとって大きなマイナスとなる。

もちろん、一人当たりの生産性が飛躍的に伸びるような技術革新があれば別だが、成長戦略を見つけて実行するのは、なかなか難しい。結局、日本は1%そこそこの成長が限界だ。それならば、12年末に誕生した第2次安倍政権のもとでの経済成長は成果をあげていることになる。ただし、第3の矢である「成長戦略」によって劇的に成長率が高まったと主張するのは、難しい。

景気が良くなれば、雇用が増えて、失業率は低下する。図2(以下)で示したように、失業率は、リーマン・ショック後に5.5%まで急上昇したあと、徐々に低下を続け、最近では3%まで低下してきた。


さらに、求人と求職者の比率を表す「有効求人倍率」(図では、左軸で上下を逆転している)でみても最近は1.4倍まで上昇して、この25年間で最も「人手不足」の状況にある。建設業の従事者が不足するというのは、11年の東日本大震災からの復興事業が本格化して以来、数年ずっと継続している。さらに、最近では、深夜勤務の希望者が少ないことから24時間営業をやめるコンビニが出てきている。またドライバーの確保が難しいことから、ヤマト運輸は宅配便の値上げを決定した。

成長率でみても、労働市場指標でみても、日本のマクロ経済状況は悪くない。リーマン・ショック直後の総需要不足、デフレ進行という状況では確かになくなっている。大胆な金融政策の「第1の矢」、機動的な財政政策の「第2の矢」は成功しているように見える。

ただし、不安がまったくないわけではない。まず、現在の悪くはない成長率や失業率を可能にしているのは、毎年40兆円を超える国債の新規発行に頼る大きな財政赤字と、年間80兆円にものぼる大量の国債購入を含む非伝統的金融政策である。民間は力強さに欠けている。さらに好景気とはいえ、インフレ率はまだ0%近くで、景気過熱ではない。インフレ目標2%達成のためには、さらなる景気刺激をする余地はあるのかもしれない。

景気刺激には、さらなる金融政策か、財政政策か、という選択がある。

潜在成長率を引き上げる成長戦略が重要ということに変わりはないが、ここでは、潜在成長率をこえる総需要を引き出す手段を考えているため、別の考察だ。16年1月導入の“負の金利政策”は銀行界から反発が出たことから、金融政策の手段が尽きてきたと考える人が多い。財政政策への期待が高まっている一方で、GDP(国内総生産)比で230%をこえる債務残高をさらに積み上げることには警戒感を持つ人も多い。
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文=伊藤隆敏

この記事は 「Forbes JAPAN No.34 2017年5月号(2017/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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