私たちファンドマネジャーは、貸借対照表や損益計算書、アニュアルレポートといった情報だけで投資する企業を選んでいるわけではない。
企業の本社や工場などに足を運び、社長や社員への取材を繰り返し、商品やサービスを試しながら、ファンドに組み入れるべきか、慎重に絞り込んでいる。
東芝のような大企業でさえ会計上の不正を行っている以上、その数字が本物かどうかを見極めるためにも、実際に会社を訪問して“臭いを嗅ぐ”ことがますます大事になっているのだ。
こうした会社訪問で注目すべき点がいくつもある。今回はそこから導き出した「法則」をご紹介したい。
チェックは企業のオフィスの入り口から始まる。仮に、社員用の傘立てにビニール傘が無造作に立ててあるとしよう。梅雨の時期ならともかく、晴れているのに傘がたくさん刺さっているとしたら、この会社に投資すべきだろうか?
答えは「ノー」だ。グチャグチャの傘や折れた傘が放置されている会社は、社員の仕事に対するモチベーションが低いと考えられる。
これを「持ち主がルーズなだけ」と片付けてはいけない。さまざまな面で社員教育が行き届いていないと想像されるからだ。お客様の目に入るところに傘を放置しているような会社が、ミスなく経営できていると考えるほうが難しい。請求書の送り忘れや従業員の不正請求などを見過ごしている可能性が高い。
次に、会議室に時計があれば、正しい時刻を示しているかを確認する。意図的に早めている場合もあるが、5分以上のズレがある場合は要注意。社員が気づいていないか、あるいは気がついても直そうとしていないかのどちらかだから。
気づいていないというのは「時間を守っていない」「何ごとにもルーズ」という問題が潜んでいる可能性がある。気がついても直そうとしないのであれば、「自ら主体的に動こうとしない」社員の気質の表れともいえる。カレンダーがめくられていない場合も要注意だ。
必ず見ておきたいのが、コピー機周辺の様子。コピー機は部屋の通路側に設置されていることが多いので、会議室に通される際にチェックできる。コピー機はたくさんの人が使う。何でも他人任せにしても平気な人ばかりの会社では、コピー用紙の包装紙や印刷ミスをした紙が積みあがっている。情報管理の観点からも、ビジネス文書が放置されたままというのは由々しき問題ではなかろうか。