標準的なダミーは長年にわたって、身長175cm、体重約77kgとされてきた。だが、米CBSニュースによると、ダミー人形などの製造を手掛ける同国のヒューマネティクスは、現在の米国人の体格をより正確に反映した新型ダミーの開発を進めている。
新たなダミー人形は身長が数インチ(1インチ=2.54cm)伸ばされるほか、体重が45kg増やされる。こうした「リアルな米国人」に近づけるための変更は、なぜ必要なのだろうか?それは、自動車事故において「大きさ」は非常に重要な問題だからだ。
肥満は心臓病やがん、糖尿病、うつ病などと関連していることが分かっている。そして、これらの問題に加え、最悪の自動車事故による負傷なども、肥満と大きく関わっている。カリフォルニア大学バークレー校の研究機関SafeTRECとウェストバージニア大学の研究機関が行った共同研究の結果によると、肥満のドライバーが自動車事故で死亡する可能性は、普通体重(BMI25未満)のドライバーに比べ、最大で78%高いことが分かった。
また、肥満の人の間でもBMI値が高いほど、死亡する危険性が高くなっていることが確認された。例えば、BMI が30〜34.9の人は21%、35~39.9の人は51%、40を超える人は81%、それぞれ死亡する危険度が上昇していた。この調査ではBMIのほか、米道路交通安全局(NHTSA)の事故死分析報告システム(FARS)のデータが採用されている。
目的は安全機能の強化
こうした調査結果を導き出している原因は、いくつか考えられる。第一に、健康状態が全般的に良好であるほど、衝突事故の影響からの回復と生存の可能性は高まることが挙げられる。つまり、元々何らかの病気があれば、事故による外傷などからの回復力が弱まっている可能性があるということだ。
第二に、体重と体の大きさは、救出や医療処置を妨げる可能性がある点が指摘される。事故に遭った車から助け出すことや、画像診断、外科手術などで、肥満であることが問題になる場合もある。
第三に、体の大きさは自動車事故における衝突の動力学に影響を及ぼすことが挙げられる。バージニア大学とスウェーデンの自動車安全システム最大手オートリブは、肥満と普通体重の人、合計8人の献体された遺体を使った調査を実施。正面衝突した場合、肥満であるか否かは体の動き方に大きく影響を及ぼしていることを確認した。
衝突時、肥満の人の遺体はシートベルトによって抑え込まれる前に、大きく前方に移動した。腰の部分の位置が大幅に動いたことになり、胸部に負傷する可能性が高くなるということを意味している。
最後に挙げられるのは、特定の体格の人たちを基準に設計された安全機能は、その他の体格の人にはあまり効果がないという点だ。例えば、過体重または肥満の人は、シートベルトによって抑えられる体の部分が普通体重の人とは異なる。また、運転席に座ったときの体とハンドル、エアバッグとの距離も違う。この最後に指摘される点こそが、新たなダミーが登場することになった理由だ。