ビジネス

2017.05.02

イノベーション・チームが知るべき「2つの違い」

ESB Professional / Shutterstock.com


佐宗:「目的のデザイン」について詳しく教えて下さい。最近、私の仕事の中で、ビジョンをデザインするプロジェクトが多くなっています。多くの人が「ビジョンづくり」の新しい方法に興味を持っています。私はこれこそが“デザインと経営の最適な交差点”だと思っています。プロセスの話をする中で、未来の体験のビジョンやチームのビジョンづくりの話がありました。デザイナーは経営陣のビジョンづくりにどのように貢献できるのでしょうか。

マリオ:それは「なぜ、その組織にとって重要で、なぜ、急を要するのか」という質問からはじまります。ビジネスモデルが破壊されているのか、成長性が乏しいのか、変化を欲しているのか。顧客と腹を割って会話し、「未来には、我々のビジネスはこうなって欲しい」という仮説を立てます。解決策ではなく、あくまで問題を人間中心でみるということ。

新しいユーザーインターフェイス(UI)が必要だ、というソリューションから入る顧客もいますが、そうではありません。そのチームのエコシステムへと戻し、関係するものを見直し、全体的なアプローチをとります。

佐宗:未来やビジョンは、アートな側面とマネジメントの側面があります。私はマネジメントは一種のアートだと思っています。デザインスクールでの学びのひとつにエコシステムの観点から複雑なものを見るメリットをあげていました。エコシステムの観点から“全体を見ること”をどのように教えていますか。

マリオ:よくありがちなのは、問題解決にリニア(直線的)なアプローチをとることです。デザインはノンリニアなアプローチです。デザイン思考では、キャンパスを用意し、コンピュータから離れ、システムを一度マッピングします。あらゆる関係性を可視化するために、全ての要素を列挙していく。こうした方法で、ノンリニアな思考を教えています。

リニアな思考は、ストーリーを伝えたり、誰かにビジョンを紹介する時には使用できます。たとえば、この次に何が起こって、どうなるのか、ということを伝える目的には役に立ちます。

イノベーションについて考えるチームは、2つのアプローチの違いを理解し、いつ、どちらを使うのか、知らなければなりません。対象について、ノンリニアに、ビジュアルに考えることで、全てを俯瞰できるため、システム思考の筋肉を鍛えられると思っています。また可視化することにより、関係や類似性についても考えられる。こうすることで、どこから着手して、何をすべきか、という優先順位がつけられるようになる。顧客や内部チームとシステム思考を使う時はこうした手法を用います。

佐宗:「ignite」チームはどのような採用手法をとっていますか。デザイナーをとるのか、デザインシンカーをとるのか。日本はアメリカほどデザインシンカーがいませんが、どのように人材を補充すればいいでしょうか。

マリオ:我々はチームに多様性を求めています。そのため、メンバーには、デザイン戦略やイノベーション戦略などのリサーチ出身の人もいれば、プロダクトのデザイナーもいる。デザイン中心のコンサルティングファーム出身者、人間中心のマネジメントコンサルティングファームからきた人もいて、とても面白いチームになっています。

イノベーションをドライブし、そのアプローチを理解するために人材は不可欠です。日本のマーケットは確実に人材不足状態にあると思います。人材についての解決策のひとつは「教育」でしょう。もうひとつは「日本のテクノロジー・シーンやスタートアップ・シーンです。これらの業界が成長すれば、デザイナーがさらに必要となります。

アメリカでは、公教育以外に、プロダクトマネジメントやデザインを教えるところが増えています。多くの人が興味を持ち、キャリアを変えたいと思っている人はそこで学び、その後、デザインシンカーとして業界に入るという場を与えられています。これは、そうした人材を必要とするテックスタートアップが増えたことが背景にあります。日本にも、そういうことが起きると思います。
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文=佐宗邦威

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