地元コミュニティセンターで実施されたパブリックビューイング。そこには、200人以上の柏崎市民が殺到していた。それも、当然だ。水球男子日本代表には地元チーム「ブルボンウォーターポロクラブ柏崎」から、4人もの選手が選ばれている。いつも同じ町で暮らす彼らの活躍に、会場は大盛り上がりだった。
同チームが柏崎市に日本初の水球社会人チームとして誕生したのは、2010年。立ち上げたのは、元日本代表の青柳勧だ。青柳は水球には、人口10万人規模の町が最適だと考え、柏崎市を選んだという。
青柳によれば、特定の競技のメッカとして成功する町には、「3つの条件」がある。(1)その競技が盛んであること、(2)象徴となるような競技施設があること、(3)トップチームがあること、の3つだ。
例えば、カーリングには3つの代表的な「カーリングの町」がある。北海道常呂町、長野県軽井沢、青森県だ。常呂町は、町民の6割以上が経験者。軽井沢には長野五輪で造られた会場「軽井沢アリーナ」がある。青森県には、2度の五輪出場を果たした「チーム青森」があった。
バスケットで、Bリーグの琉球ゴールデンキングスが大成功している背景には、米軍基地の存在が大きい。沖縄では、日本の家庭でも昔からNBA中継を視聴できた。ファンの中には米軍関係者も多く、会場の盛り上げ方も心得ている。
対照的に、秋田県能代市は、バスケで町を売る絶好機を逸した。強豪校「能代工業」はあるが、Bリーグ参加チームを持てなかったのだ。高校や大学の有名チームがあっても、最終的な受け皿となる社会人チームやプロチームがなければ、人材は町から流出してしまう。
柏崎市には3条件のうち、1と2が既にあった。そこに青山は地元企業のブルボンを巻き込み、全ての条件を整えた。水球が盛んな京都と金沢も候補地ではあった。
しかし、大都市を選ぶと、JリーグやBリーグのチームと競合する可能性が高い。そうなると、マイナースポーツである水球に勝ち目はない。大都市がわざわざ「水球の町」と、うたってくれるはずもない。一方、補助金の投入や練習会場の整備などに、積極的に取り組む柏崎市。町からのバックアップは万全だ。
柏崎市では、水球関連ビジネスも軌道に乗り始めている。16年は、イタリアの女子クラブチーム「コゼンツァ」とインドネシア・ジャカルタ州男子チームの合宿を誘致。東京五輪では、強豪国のモンテネグロの合宿地となることが決定済みだ。
柏崎市のように、町の規模に適した競技を誘致する。そうすれば、マイナースポーツと町、双方にとって「幸福な未来」が開ける可能性は、十分にあるのだ。
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