2つ目が“Questioning(質問力)”である。質問には、その人の知性や好奇心、批評眼の有無などが如実に表れるが、イノベーターは、常識や現状に挑むような問いかけを常に行う。「What if?(〜したらどうなるか)」「Why not?(なぜ〜してはダメなのか)」といった具合だ。現状改善のための問いかけではない。イノベーターの間でもスキルごとに多少の「格差」はあるが、こと質問力となると、「いずれもパワフル」(グレガーセン氏)だ。
3つ目が“Observing(観察力)”である。イノベーターは、顧客層の分析や観察を怠らない。顧客の「片づけるべき用事」の発見も、観察力にかかっている。
4つ目が“Experimenting(実験力)”だ。トーマス・エジソンをはじめ、イノベーターは失敗を恐れず、挑戦を好む。大企業では、現状維持を望む抵抗勢力のコーポレート・アンチボディ(企業抗体)が実験に待ったをかけがちだが、たとえばアマゾンのベゾスCEOは、進んで実験に挑むよう社員に勧めている。
前出・共同執筆者のダイアー教授とグレガーセン氏による米フォーブス誌(13年9月号)への寄稿文によると、アマゾンでは、実験コストを下げることで回数を増やし、イノベーションの成功率を上げるよう努めているという。
5つ目が“Networking(人脈力)”だ。社内の人間関係が重視される日本と違い、転職大国の米国では、他社・異業種間のネットワークが盛んだ。しかし、イノベーターは、さらに上をいく。TEDやグローバルエリートが集うカンファレンスなど仕事以外のイベントに足を運んでは、属性や思考が異なる人々と触れ合うことで、アイデアのダイバシティ(多様性)をみがく。
こうしたイノベーターのDNAを根気強く習慣化し、自分のものにするためのカギは、イノベーションへの情熱だ。そして、いつの時代も、ゲームチェンジャーの情熱や哲学、発見力が破壊的イノベーションを生み、世界を変えていく。
クレイトン・M・クリステンセン◎ハーバード・ビジネス・スクール(HBS) 教授。専門は企業経営論。なぜ巨大企業が技術革新によって衰退へ導くのか。その理由を解き明かした初の著作『イノベーションのジレンマ』(1997年)により、破壊的イノベーションの理論を確立。他著作に『イノベーションへの解』『イノベーション・オブ・ライフ』などがある。