「日本のベンチャーキャピタル(VC)業界にとって大きな転換点となる投資案件と言えるだろう」
グローバル・ブレイン(GB)社長の百合本安彦は、身を乗り出すようにそう語った。日本を代表する独立系VCを率いる百合本が興奮を隠せない様子だったが、それも無理はない-。
出資の決まったSuperflex(スーパーフレックス)は、世界最大規模の研究機関である米SRI Internationalからスピンオフしたパワードクロージング開発企業である。その基礎技術は、インターネットの原形であるARPANETやGPS(全地球測位システム)を開発したDARPA(アメリカ国防高等研究計画局)の軍需プロジェクトから民間転用している。
同社製品の最大の特長は、既存の外骨格型パワードスーツより格段に軽く、ファッション性も追求できるため、衣類として身につけられる点だ。介護者の身体機能を拡張する既存スーツとはそもそも発想の観点が異なり、高齢者(被介護者)が自ら着込むことで、基本的な日常動作を自分自身で行えるように補強する。
同社のリッチ・マホーニーCEOはSRIロボティクス部門の責任者を7年以上務めた業界第一人者-、つまりSuperflexは世界トップクラスのエンジニアやデザイナーが集まった、シリコンバレー本流のテクノロジー企業と言える。ここで、日本の独立系VCであるGBがリードインベスターを取り、世界の資産家トップ10に入る香港実業家・李嘉誠が運営するHorizons Venturesなど、海外トップVCと共同出資したインパクトは大きい。
今回、SuperflexのシリーズAでの調達総額は960万ドル、大手VCが手を出せない金額では決してなく、同社は世界中から引く手数多の存在だった。実際、百合本がマホーニーと出会ったのは2015年12月、そこからGBは度重なる提案を続け、最終的に投資実行が決まったのは16年10月である。
投資案件の95%でリード 徹底する「ハンズオン」
なぜ、GBは今回の投資を実行できたのか。裏返せば、Superflexの期待値はどこにあったのか-。その答えは、GBのハンズオン(支援先の経営に深く関与する育成型投資)、つまり専門的人材による徹底的支援がキーポイントとなっている。
投資検討段階から、百合本は5〜6人を率いて提案を繰り返した。ロボティクス、素材、IT・知識財産権、ヘルスケアなど各々の専門知識を持つベンチャーキャピタリスト、そしてシリコンバレーを熟知する米責任者、まさにGB一丸となった投資案件である。GBの知見を活かした日本・アジア展開戦略、そのなかでGBがどう貢献できるかを説明し続けた。