ビジネス

2017.03.02 08:00

「企業留学」のススメ 僕がNHKを飛び出して知ったこと


これは自分を変えるチャンスだと思って、派遣希望の手をあげました。悩んでいることの答えが、広告やPRの専門家である電通に行けば見つかるような気がしたのです。

でも、実際行ってみると、そんな甘い幻想はあっという間に消えましたよね。そもそも、みんなの話している言葉が全然わからないですもん。

オリエンだ、プレゼンだ、KPIだ、トンマナだ、フィジビリティだ、なんちゃらマーケティングだ、もう代理店用語が何一つわからない。あとパワーポイントも使ったことないですし(NHKではナレーション原稿などを一太郎かワードで書きます)、フォントだって明朝とかゴシックで事足りてきたし、そんなんだから当然イケてる資料なんて作れないし、はっきり言って超使えない奴なわけです。

そんな僕でも、同僚の皆さんの手厚いサポートのもと、結局9か月の留学期間に30件ほどの案件を担当し、酸いも甘いも含めて様々な経験を積ませてもらいました。おかげさまで広告やPRっていうのがどういう仕組みで、どんな考え方で作られていくのかが少しは分かった気がしました。

でも、僕が“企業留学”をオススメするのは、そういう未知の体験が積めるからというだけではありません。僕にとって最もよかったことは、「自分の会社を、初めて客観的に見ることができた」という点につきます。

こんなことがありました。あるメーカーから、新しいブランドラインを売り出す際に「CSV」的な手法を使ってPRして欲しいとの依頼が舞い込みました。もちろん僕はCSVなんて言葉知らないので調べてみると、ハーバードビジネススクール教授のマイケル・E・ポーターさんが唱えた「Creating Shared Value(共有価値の創造)」の略だということや、ざっくり言うと「社会的な課題を自社の強みで解決することで、企業の持続的な成長へとつなげていく戦略」を指すことが分かりました。

Forbes JAPAN愛読者のみなさんには鼻で笑われると思うのですが、僕自身はこれを知ったとき、衝撃を受けました。今まではずっと番組を見てもらうためにはどうしたらいいかということを悩んでいたのに、がらりと思考の位相を変えられてしまったのです。

それまでの僕の頭の中は「テレビはオワコンで、その中でもNHKは超絶イケてない」から「イケてるPRの手法を学んで、少しでもNHKに振り向いてもらいたい」という感じでした。でも、ちょっと待てと。ポーターさんは、社会的な課題を“自社の強み”で解決することが、企業の成長につながるとおっしゃっておられる。えっと、えっと、“NHKの強み”ってなんだろう? 恥ずかしながら僕はこのとき初めて、NHKの強みや可能性に目を向けてみることにしました。

すると、次々に思いつくんです。びっくりしました。

例えば、放送波を持っていること。当たり前すぎていまひとつ気づいていなかったのですが、これはとてつもなくすごい価値なんだと分かりました。本当に多くの企業が、テレビの情報番組に10秒でも15秒でも取り上げてもらえないかと必死のPRを展開していた。それを目の前で見て、放送波を持っているという意味をもっともっと真剣に考えなきゃいけないと思いました。

また、安定した財源があること。NHKは受信料という制度のおかげで、普通では絶対にあり得ない強みを持たせてもらっている。そのことは本当に重い責任を持つことなんだと改めて痛感しました。
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文=小国士朗

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