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2017.03.02 08:00

「企業留学」のススメ 僕がNHKを飛び出して知ったこと


そして、ポーターさんの言うところの社会的な課題をよく知っていることも強みだと思いました。日々のニュースをはじめ、NHKスペシャルや福祉番組など、ありとあらゆる番組で社会課題を広く、深く取材している。

僕はNHKを「社会課題のメガ・プラットフォーム」と捉えていますが、これは今後ますます大きな強みになりうると思っています。社会課題は、企業を成長させるための種であり、起爆剤のようなものだと思います。ですから、みんなが求める社会課題を広く深く知っているということは、提示や表現の仕方一つで大きな価値を創造することにつながるのではないかと思ったのです。

他にも、47都道府県の放送局をつなぐ全国ネットワークを持っているとか、有働アナウンサーのようなインフルエンサーが局内にいるとか、様々な強みを思いついたのですが、だんだんと腹が立ってきました。こんなにものすごい価値を最初から与えられていたのに、自分は何をしてきたんだろう。テレビがオワコンだと思っていたのは、誰よりも自分自身だったんじゃないのかと。

こうして僕は、メーカーさんからのCSVの依頼を考える中で、NHKを初めて客観的に眺め、「NHKの価値をしゃぶり尽くして、社会に貢献する」というミッションを自分の中に掲げることにしたのです。

NHKに戻った僕は、ただひたすら忠実にこのミッションに基づいて動きました。前々回前回の記事で書いたプロフェッショナルアプリなんかはその典型例です。10年続く名物ドキュメンタリー番組を因数分解すると、自分たちでは意識していなかった、流儀や音楽といった番組フォーマットに大きな価値があることがわかった。そして、その価値を「大学のキャリア教育の現場で使えるツールがない」という課題とかけあわせてみると、単なるエンタメアプリではなく、就活に悩む大学生が使える「新しい自己分析ツール」として着実に広まっていきました。

そして、僕は一人でも多くの人にアプリのことを知ってもらうために、NHKのリソースを使い倒しました。例えば、朝の人気番組「あさイチ」の有働アナウンサーにアプリでプロフェッショナル動画を作ってもらい、番組内でその動画の紹介とともにアプリの使い方を実演してもらう。あるいは100万人を超えるフォロワーを抱えるNHKの公式SNSアカウントを使ってアプリを紹介する。やれることはとことんやるし、使えるものは徹底的に使いました。

そんなこんなで無事にアプリはヒットしたわけですが、僕の中にはためらいというか、ひっかかりのようなものがずっと残りました。

プロフェッショナルという番組の持つ価値を、番組に限らずどんな形でもいいから届けたい。確かにその一心でアプリを作り、一生懸命流通させたのですが、公共放送NHKのディレクターとしての節度とか分別とかいうモノはきっとあるのだろうし、何をやってもいいということはもちろんないだろう。だけど無意識のうちに、越えてはいけない一線を越えたりしていたらどうしよう。民業圧迫!とか批判されたりしたらどうしよう。NHKのくせに出過ぎた真似したのかも…などと急に怖くなったりしていました。

そんな時に、ある人からズバっとこう言われました。「ある種の特権を持つ人間は、特権を持っていることを恥じたりするけど、その特権を使わずに、社会に貢献する機会を逃しているとしたら、そのことを恥じるべきだよね」。

うっわー。ちょっと待って、なんなのそのかっこいいセリフ。悔しい。悔しいけど、胸を撃ち抜かれました。

僕はNHKのディレクターだけど番組は作らない、“一人広告代理店”です。まずはそこからきちんと宣言することにしました。

そして、僕はNHKの価値をとことんしゃぶり尽くす男です。そしてそして、できればみんなから「NHKだからそれできるんだよ、ずっけー」って言われるようなことをたくさん仕掛けていきたいと思っているのです。

うん、だったらさ、そろそろプロフェッショナルアプリ以外のことも書かなきゃさ、ダメじゃん…。はい、次回は書きます(すみません)。

番組を作らないNHKディレクターが「ひっそりやっている大きな話」
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文=小国士朗

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