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2017.02.13

「段違いの覚悟」で世界を目指す50代の起業家

(左)経営共創基盤 塩野 誠 (右)ユニフィニティー 稲垣昭治 (photograph by Toru Hiraiwa)

ユニフィニティーは、稲垣昭治が2006年に創業したソフトウェア企業。法人向けアプリ開発プラットフォーム「Unifinity」を提供している。PowerPointで資料を作る要領で、プログラミング言語の知識がなくともアプリを開発でき、Windows、iOS、Androidと、どんなOS(基本ソフト)にも対応。OSのバージョンアップにも自動対応し、アプリの仕様書も自動生成される製品だ。

塩野誠がパートナーを務める経営共創基盤(IGPI)は、15年10月より同社に投資を行っている。


塩野:出会いは、15年8月。ライブドアの前身であるオン・ザ・エッヂのCVC・キャピタリスタ在籍時の部下で、当時証券会社の役員だった仲間から「すごいものを作った人がいる」と紹介されました。斬新な製品を作った技術系ベンチャーのリーダーは若き天才かと思いきや、稲垣さんは年上の大ベテラン。2人で並ぶと、私が投資されてそうですよね。

稲垣:私も50代の半ばを過ぎていますから(笑)。IBMを辞めて、既に16年が経ちますが、やってきたことは、ずっと“地味”です。一つの携帯電話向けコンテンツを、記述言語の異なる大手3キャリアに対応させる変換用のミドルウェアを最初に開発して以来、一貫して「ワンソースでのマルチ稼働対応」を実現する製品を手がけてきました。

塩野:稲垣さんの作る製品は、開発現場をうならせる“玄人受け”のものばかり。Unifinityの「報告書作成や顧客管理のような業務用アプリをプログラミングの知識なしに作成できる」「既存の業務システムを簡単にモバイル化できる」といった機能はあまりに革新的で、最初は信じられませんでした。投資に踏み切る前に相談した著名なSI企業の代表も「よく作ったな」と驚いたほどです。

稲垣:技術者はコーディングより、もっと開発の上流部分で知恵を絞るべきだという問題意識から、OSごとにアプリが作られ、バージョンアップで動かなくなる度に改修するという効率の悪さの解決を目指しました。

塩野:「この製品で世界を獲る」と覚悟を決め、52歳で大手資本からMBOで独立した稲垣さんは、“意地と根性の起業家”。製品のみならず、心意気に感銘を受け、1億円以上を一発で投資させていただきました。

稲垣:投資をいただく以前には、何度も資金難に直面。生命保険も解約し、入れられる私財はすべて投入して、なんとか乗り切りました。

塩野:この“段違いの覚悟”を、起業家志望者には伝えたいですね(笑)。「ワンソース・マルチOSの開発プラットフォーム」は、今トレンドの分野です。4億ドルとも言われるMicrosoftによるXamarinの買収やIBMによるWorklightの買収など、グローバル企業が続々と巨額の資本を投下。ユニフィニティーには、世界戦略製品と競い、国内某通信会社が提供し、16万人規模のユーザーが利用する基幹システムのモバイル化案件を勝ち取った実績があります。勝因は、Androidの大幅なアップデートに唯一メンテナンスなしで対応できたこと。この性能の高さを武器に、世界市場での躍進を期待します。

稲垣:中国や韓国で90%以上の企業が業務システムをモバイル化する一方、日本はわずか23%。今後5年で市場が立ち上がる中、企業への導入でのトップシェア獲得を目指します。

将来的には、「家中のIoT端末のコントロールシステムを、Unifinityを使って5分で開発する」というように、ツールを一般家庭に普及させる予定です。企業から家庭へ、家庭から個人へ─あらゆるシーンで使われる“究極の開発プラットフォーム”へと昇華させるべく、邁進します。

しおの・まこと◎経営共創基盤(IGPI)パートナー・取締役マネージングディレクター。慶應義塾大学法学部卒。ワシントン大学ロースクール法学修士。ゴールドマン・サックス、ベイン等を経て、IGPIへ参画。主な投資先は、SPOT、ipoca等。著書に『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか』など。

いながき・しょうじ◎ユニフィニティー代表取締役社長。慶應義塾大学法学部卒。日本IBM、モバイルベンチャー企業代表、コンサルティング企業代表を経て、2006年4月クレスコとの共同出資企業クレスコ・コミュニケーションズを創業し、代表取締役に就任。14年2月MBOを実施しクレスコから独立。

山本隆太郎 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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