醤油や奈良漬が「世界一のショコラ」になるまで/小山 進

コンクールに出品したチョコレート4作品。左から「醤油ヌーヴォー」「鳳凰単叢蜜桃香&マンゴー」「コーヒーゼリー&ライチ」「奈良漬プラリネ」

2016年のコンクールに出品したチョコレートは、「自然と共に」をテーマにしました。

自然は時に大きな災害をもたらすけれど、一方で微生物の発酵や太陽のエネルギーなど恩恵も多い。今回は、こうした人の力が及ばない“自然の力”を借りて4つの新作を作りました。

ミルクチョコレートだけを使ったというのも特徴です。普通、国際コンクールにミルクチョコレートだけで勝負する人なんていないのですが、敢えてこだわりました。初めて板状のミルクチョコレートを作ったスイスの職人、ダニエル・ペーターに報いたいと思ったんです。

ここから4つそれぞれを紹介します。まず1つ目は「醤油ヌーヴォー」という1層のチョコレート。コロンビアのシエラ・ネバダ山脈の麓で栽培されているカカオから生まれた、ベリーのような酸味と赤ワインのようなタンニンが効いたミルクチョコレートと、シェリー酒「ペドロヒメネス」、煮切り醤油のマリアージュです。この2つの素材は、僕の大好きな洋食屋と寿司屋からヒントをもらいました。

ペドロヒメネスは、洋食屋でたまたま食べた料理のソースがアイデア源です。ペドロヒメネス種の干しブドウだけを樽で熟成させてできたシェリー酒を使っているそうで、これをチョコレートに使ってみたら面白いのではないかと思いついきました。

煮切り醤油とは、醤油とみりんや酒などを火にかけ、余分なアルコール分を揮発させたものです。そのお寿司屋さんは辛口の煮切り醤油を使っているのですが、中トロと一緒に口にすると、ビックリするような化学反応を起こすのです。

醤油もシェリー酒も、発酵・熟成させるときに木の樽で寝かせます。つまり、今回の作品コンセプトにつながる“人間にはどうすることもできない自然の力”が宿っているんです。

2つ目は、時間差で味に出会うことができる2層のチョコレート。これには、発酵の段階で桃の香りが引き出されるという変わった特長を持った中国のウーロン茶「鳳凰単叢蜜桃香(ほうおうたんそうみつとうこう)」を使っています。

その茶葉は、鳳凰山で栽培されている樹齢数百年というお茶の木一本から取れるもので、カカオで言えば“シングルオリジン”。樹齢が長い上に一切剪定もされていない樹はしっかりとした根を張り、お茶の旨みの元ともいえるミネラルを地中から豊富に得ているポテンシャルの非常に高いお茶です。

3年くらい前に初めて飲んで、そのときの試作は上手くいかなかったんですが、再び口にしたときに「絶対にマンゴーと合う」とひらめき、合わせてみたらピッタリだったんです。烏龍茶もまた発酵されたもの。これは水の中で蘇らせる「海」のイメージです。
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編集=筒井智子 写真=岩沢蘭

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