─社内で起業家マインドを育成するばかりではなく、社外のベンチャー起業家と組むTAPも同時に立ち上げられた。2つの事業の目的や位置付けはどう区別されているのでしょうか。
目的はある意味で同じかもしれませんが、位置付けは違います。社内起業はあくまで当社の事業として行っていくことを想定しています。一方で、社外と組むTAPの場合、当社の事業とすぐに結びつかないものであってもいいという考え方です。実際、2期目となる2016年は95件の応募があり、そのうち6件が最終審査に残りましたが、なかには私どもの事業と直接関係のないようなものもあります。
社内起業家育成制度の方は、中から外へと向かう流れ。TAPの方は逆で、外からの刺激を中へと取り込む流れを意図しています。TAPを通じ、私どもの社員に対して「世の中は今、こういう方向に向かって動いているんだ」と理解してもらいたい。少し上のレイヤーから眺めることで、自分たちの手がけている事業を客観的に見ることができるようになる目を養ってほしいという狙いもあります。
もう1つは、組み合わせのバリエーションを増やしたい。イノベーションとは、あるもの同士を組み合わせて起こることが多いわけです。これを社内だけでやっていたら限界があるでしょう。自分たちでは発想できない社外のアイデアと組み合わせることで、「気づき」の連鎖を起こしていく。たくさんの刺激を与えることでイノベーションの可能性を高めていくことができる、と考えました。
魅力的な舞台をつくるのが我々の仕事
─『イノベーションのジレンマ』で有名なハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授も、イノベーションを起こせる人は物事を関連づけて考える力が強い、と指摘していますから、今のお話はとても納得できます。このような制度を通すか通さないかを判断するうえで、野本社長ご自身が大事にされている判断基準は何でしょうか。
大きく3つあります。1つ目は世のため人のためになるか、つまり、こういうものがあったらいいよね、と思えるか。2つ目は面白いか、面白くないか。楽しそうかどうかも重要な判断基準の1つです。
最後はやはり儲かるかどうか。儲かるというと語弊がありますが、要するに持続可能かどうかということですね。事業というのは基本的に世の中に必要とされるものでないといけません。必要なものである以上、継続的に利益を生み出しながら事業を支えていかなくてはならない。ですから、ここがしっかりしているかどうかが重要な判断基準になるのではないでしょうか。
─2つの制度が立ち上がって約1年経ちましたが、100点満点で言うと、どれくらいのところまで来た感触ですか?
70点から80点くらい。合格点だと思いますね。そう思う理由は、どちらもそれだけの数が案として上がってきたということ。このような制度に応募するためにはそれなりの手間暇がかかりますから、それでも一定数集まったということは、担当者がそれだけ努力をしたということであり、そこは評価できると思います。