ただ、創業者がいなくなって20年、30年と経ってくると、どうしても社内が“サラリーマン化”してきます。私が出向から戻ってきたときにも「ああしたらいい」「こうしたらいい」と事業提案しましたが、私の力不足でことごとく拒否されました。
─ことごとくですか?
ええ。これはまだ出向していたときのことですが、東急沿線エリアでコミュニティFMを立ち上げようとした際にも大反対されました。FMラジオは、災害など不測の事態が起これば必ず必要になるものです。1つ持っていれば他社と連携もできる。社内を何とか説き伏せ、資本金8,000万円だけはなんとか出してもらいましたが、「広告費は自分で集めろ」と言われまして。大変苦労しましたが、そのとき、ラジオで流す商品を東急系列のスーパーや百貨店に並べるスキームを思いつき、それが非常にうまくいきました。今でも、当時の経験はとても役に立っています。
そんなわけで、私自身は出向中の経験を通じて起業家マインドを持ち、事業単体ではなくグループ全体でバリューを最大化するためにはどうしたらいいか、を考える癖がつきました。ならば、これを仕組み化して次世代経営者の育成に役立てることもできるだろう、と思ったわけです。
起業体験があれば全体最適を想像できる
─次世代経営者に必要な資質はなんであるとお考えですか。
サラリーマン社長に必要な要素は3つあります。1つ目はやはり、ビジョンを示すこと。これは創業者も同じです。
2つ目は多くの人たちの意見から正しい意見をつかみ、判断すること。これがないと、ただ単に担当者の言いなりになってしまうか、二者択一の単純な選択しかできなくなってしまいます。
担当者というのは自分の所属する部門のことしか見えていませんから、どうしても部分最適な発想になってしまう。駅と商業施設を一体化すれば大型の施設がつくれるのに、駅は駅だけでつくってしまう。起業すれば、当然、人も雇わなくてはなりませんし、会社としてどうするべきかというコンプライアンスやガバナンスの問題にも直面します。このような経験が多少なりともあれば、規模が大きくなった場合でも、それを膨らませて考えることができる。反対に、これがゼロだとなかなか全体最適を想像できなくなってしまいます。
3つ目に重要なのはリスクへの対応力です。これは事前と事後、両方あります。鉄道会社の場合は事故や災害に対する備えも必要ですから、そういったものへの想像力は常に持っていなくては社長は務まりません。