ビジネス

2017.01.13 10:00

世界の富豪たちが「安藤建築」に託す夢


建築は依頼者の強い思いがつくるものです。必要なのは、しっかりとした意思があり、ぶれないこと。依頼主がなげやりになると、設計もなげやりになります。建築家と依頼主はお互いにパートナーとして一緒に新しい世界を切り開いていく関係にあります。優れた依頼主はしっかり自分の意見を言うし、我々もしっかり聞く。そうすることではじめて価値ある建築が生まれるのです。

<RGS>という呼称は、モンテレイ大学の発展に寄与したファミリーの名前に由来します。2013年にセンターの竣工式を無事迎えた夫人は、翌年7月、自らの使命をすべてやり終えたかのように静かに逝去しました。

個人宅の設計というものは、我々にとってはひとつの仕事にすぎませんが、依頼主にとっては一生の住まいとなります。だから、お互いによほどの信頼関係がなければ、うまくいきません。

実は、モンテレイの仕事を請けるとき、最初はためらいがありました。それを乗り越えられたのは、依頼主の熱意に圧倒されたからです。技術的なことはメキシコと日本ではずいぶん違いますが、気持ちさえあればなんとかなる。仕事に必要なのは、創造性はもちろんですが、忍耐力と協調性、持続力です。

その意味では、私が建築を手がけた直島(香川県)のベネッセハウスミュージアムの実現も、施主であるベネッセコーポレーションの福武總一郎氏の勇気といえるでしょう。どんなプロジェクトも、クライアントに勇気があって、前に進めようという気持ちがあるかどうかにかかっているのです。

これまで私は、サントリーの佐治敬三氏、アサヒビールの樋口廣太郎氏、セゾングループの堤清二氏、京セラの稲盛和夫氏など、多くの企業家たちとの出会いに恵まれました。皆私より15歳くらい年長です。彼らとの出会いが生まれたのも、私が常に希望を持って、夢に向かって全力疾走していたからだと思います。何の実績もありませんでしたが、ただ「人間として面白いから」というそれだけの理由で、相手にして下さったのです。

だから、若い時代はひたすら走るしかない。全力で走っていれば、必ず誰かが近づいてきます。クライアントは一緒に走れる人がいい。何でも言うこと聞く人より、言うことを聞かないけれど、希望に燃えている人がいいのです。


TADAO ANDO◎1941年大阪生まれ。建築家。独学で建築を学び、1969年に安藤忠雄建築研究所を設立。79年「住吉の長屋」で日本建築学会賞。代表作に「光の教会」「淡路夢舞台」「FABRICA(ベネトンアートスクール)」など。10年文化勲章受賞。17年9月27日(水)〜12月18日(月)国立新美術館にて開館10周年「安藤忠雄展」開催。原寸大で「光の教会」を再現するほか100を超える住宅作品の全てが公開される。

構成=中村正人

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事