【作家対談】竹内 薫x波多野 聖 人工知能が「小説の世界」を現実にする日

竹内薫(左)、波多野 聖(右):写真=アーウィン・ウォン


ー“AIに奪われる仕事”について、話は進む。竹内が「教師や保育士は、最終的には人間が行うと思う」と発言したのをきっかけに、話題は「教育」へ。

竹内:僕は「塾」はなくなると思っていて。受験システムそのものが崩壊すると思うんです。東大合格を目指すAI「東ロボくん」の挑戦が成功して、公務員試験に合格するようになったら、公務員の仕事で必要とされている素養はAIで足りるようになる。

人間に残されてくるのは、最終的には創造的な仕事になってくる。

波多野:そういうことですね。

竹内:必要とされる人材がガラッと変わる。そこで、教育をどうするかということになると思うんです。代替されていく職業に就かせるような教育をしても仕方がない。

波多野:その必要とされる人材、あるいは必要とされるエリアっていったい何なのか、というところだと思うんですけどね。

竹内:おそらく「数学者」はいなくならないでしょうね。

波多野:数学者ですか。

竹内:AIも、結局は計算です。その計算をするためには何かハードウェアとソフトウェアが必要なわけです。その仕事を行うのはプログラマーと呼ばれますが、彼らは広義の数学者です。

現在も、紙と鉛筆だけで研究している数学者は大学の一部の研究室に閉じこもって、お金を稼げないでいる。でも、コンピュータを駆使できる数学者は、驚くほどのお金を稼ぐわけです。その人たちは確実に生き残る。AIを支配する立場に回れるからです。

AIを設計することも必要なわけですし、メンテナンスも必要です。トップクラスの数学者がコンピュータと仕事をする。彼らの仕事は、AIには奪いようがありませんね。

波多野:でも、数万人は必要ないですよね。

竹内:そんなにいらないですね(笑)。

波多野:日本の人口を考えれば、数千人ですむ。数万人、数十万人、数百万人という人を養っていくクリエイティブなエリアを何らかの形でつくっていく必要がある。

竹内:芸術系も生き残ると思いますね。

これも動物の進化でいうと、進化とは関係ないのに“踊りが上手な鳥”“模様がきれいなオス”というのが子孫を残せたりする。

どうも見ていると、「必要ないことに資源を割くことができる人」というのは、生き残るわけですよ。生き残るために必要なことは、もうできている。プラスして「ピアノが弾ける、ダンスがうまい」という人たちは、生き残れるように思うんです。

波多野:僕は小説の中で提言するかどうかは別にして、提言しなければいけないと考えているのが、「株式会社」のやり方を変えなきゃいけないということです。

AIに代替されたものに代わる何かを創造できる企業のあり方を評価できるようにしなければいけないわけですよ。AIによって「100のコストが50になり、利益が50増えた」ことを評価するのではなく、「生まれた50の利益」をまた人間に投資できるような、再投資のシステムを持っている企業を評価しよう、というふうにしていかないと。

AIが突きつけてくるのは「本当の人間の幸福とは何か?」という問いなのかもしれません。人間とは創造的な生き物である、と誰もが思いたいものですが、相対的に考えればこの世界には創造的な能力のない人がたくさんいるわけです。その多くの人たちが、「人間とは何か」という問いに直面する時が来ているのだと思います。
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構成=森 旭彦、フォーブスジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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