【作家対談】竹内 薫x波多野 聖 人工知能が「小説の世界」を現実にする日

竹内薫(左)、波多野 聖(右):写真=アーウィン・ウォン


ー話題は、量子コンピュータへ。春秋戦国時代に生まれた荘子の思想と、量子力学に類似性を見出したことが「バタフライ・ドクトリン」を執筆するきっかけとなった、と波多野は言う。

波多野:小説に量子コンピュータを登場させるにあたり、量子力学を勉強しましたが、こんな面白いものはない。直感とは相容れないものが量子力学の世界なんですね。

例えば、今ここにひとつの粒子があったとして、次の瞬間には宇宙の果てに行っているかもしれない。そう言われても、「えっ?」となりますよね。

今まで不思議だと思っていた人間の意識、魂、死後の世界まで説明できてしまうかもしれないのが量子力学の世界。そして、それをコンピュータとして使えるかもしれないという点について、どうお考えですか?

竹内:僕の印象としては、人類がようやく世界の一番基礎レベルの法則を計算に使うことができるようになってきたんだな、と。

実はあらゆる物理現象、地球上から宇宙の果てに至るまで、すべてのものは計算に置き換えられるということ。それはある意味、宇宙全体が常に計算を行っている、と捉えることができる世界観でもあるんです。

波多野:そういう存在をAIと同時並行的に人間が手に入れようとしている。最終的に人間の世界はどのようになっていくのか、と考えた時に、混乱の一途なわけですよ。

ある意味で春秋戦国時代にも似た混乱を招きます。老荘思想と称され、儒家や墨家と並ぶ道家の中心的な思想は「物事は不確実だ」ということ。その教えは人間存在の不確実性を認識すればするほど、精神の自由なるものを得ていけるということ。

荘子を読んでもう一つ面白かったのが、「地球は青い」ということを認識していた、ということ。そういう認識を思想として生み出していた人間がいた、ということです。

竹内:例えば、アインシュタインは子供の頃にカントの『純粋理性批判』を読んでいたようです。欧米の数学者、物理学者って、哲学書を読んでいる人が多い。哲学に隠されている意味みたいなものを物理式という記号に落とす、といったような。 

思想家や宗教家の方は、直感を大事にしていますよね。量子力学はある意味、それを単に記号化したにすぎない。そういう意味では、それらが似ているというのはむしろ当たり前なのかな、という気がしています。

ようやく人類は大昔からある思想の根本的なものを記号として数式化できるようになった。そんなイメージがありますね。


波多野 聖◎1959年生まれ。農林中央金庫、クレディ・スイス投資顧問、日興アセットマネジメントなどで投資運用のファンド・マネジャーとして活躍した後、2012年に『銭の戦争 第一巻 魔王誕生』で小説家デビュー。近著に『メガバンク最終決戦』『本屋稼業』。

竹内 薫◎1960年生まれ。物理、数学、脳、宇宙など幅広いジャンルで執筆、講演を行う。近著に『量子コンピューターが本当にすごい』『面白くて眠れなくなる遺伝子』など。NHK Eテレ「サイエンス ZERO」ではナビゲーターを務める。

構成=森 旭彦、フォーブスジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.29 2016年12月号(2016/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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