企業によるAIの活用には、AIそのものを用いた商品やサービス提供と、バックオフィス等での利用が考えられるが、いずれの分野でも日本は諸外国に比して導入が遅れていると、AI研究の第一人者、東京大学の松尾豊特任准教授は言う。
「今、企業はリスクを恐れずAI技術を取り込み、収益につなげる必要があります」
松尾は、AIを「大人のAI」と「子供のAI」の2つに大別する。
「大人のAI」は、すでに存在しているビッグデータから、一定のパターンを発見するもので、判断の基準を人間があらかじめ設定する必要がある。
一方「子供のAI」は、背景知識のほとんどない状態から、AI自身が試行錯誤を繰り返して性能を向上させる。日本はこれまでITビジネス全般で諸外国に大敗を喫してきた。さらに、先行する「大人のAI」活用でも大きな後れを取っている。だが現在急成長している「子供のAI」分野は発展途上で、「日本企業にもまだまだチャンスがある」という。
認識機能を持つ「子供のAI」とロボットを組み合わせることで、これまでにない新ビジネスの創出が期待される。自動運転もその一つだが、今後注目すべきは農業や建築、調理、掃除などの自動化だ。掃除ロボット「ルンバ」は部屋に掃除機をかけることはできても、散らばったものを認識して片づけることはできない。
しかし、人間の認識能力に匹敵する画像認識機能を搭載したAIがロボットを動かすことで、片づけや調理のような複雑な作業も自動化できる。
「朝出かけて、夜帰宅するまでの間に、散らかった部屋が片付けられている。片づけは家庭だけではなく、オフィスや商業施設にも膨大な需要がある」
もともと日本のロボット技術は高い水準にある。これにAIを融合させれば、日本も新市場でイニシアティブをとることができるはずだ。
バックオフィス活用の課題はデータ蓄積
今後AIは、これまで人力や直感に頼っていた企業のバックオフィス業務の自動化でも活用が見込まれる。だが問題は、こういった分野にデータを蓄積し、分析する土壌がないという点だ。
例えば企業の採用においては、志望者を面接官が面接し、筆記試験の結果を加味した点数で採用を決定する。しかし、採用された人材が数年後どれくらい活躍しているのかをデータ化し、採用結果の検証をしている企業は稀だ。