とはいえ、フェイスブックがインスタグラムの成長を大幅に加速させたのも事実だ。実際、シストロムも「フェイスブックのおかげでここまでの規模に成長することができた」と認めている。
“ソーシャルメディアの巨人”の中で稼働することにより、そのテクノロジー、最上級のインフラ設備とエンジニア、巨大な営業チームを活用し、10億人を超えるユーザーの恩恵を受けることができたのだ。
企業内企業であることには、他にも利点がある。シストロムは週に1度、ザッカーバーグと話す機会を持てるほか、フェイスブック傘下のチャットアプリ「ワッツアップ」や仮想現実端末メーカー「オキュラスVR」の経営陣、フェイスブック幹部のシェリル・サンドバーグなどにも相談できる。
「フェイスブックで働くことの利点に、そういう人たちと一室に集まり、互いに助け合い、学び合えるところがある」とシストロムは話す。
「それぞれ事業は異なるけれど、僕らは多くの同じ課題を抱えている。たとえば、規制やエコシステムの変化、人がどんなツールに価値を覚え、どんなふうにコミュニケーションを取りたいのかという問題とか。競合会社の多くも共通している」
確かに、両者は多くを共有しているが、社風などの面ではスタンスが分かれる。フェイスブックの信念は、「すばやく動き、破壊せよ」だ。かたや、インスタグラムのそれは、「石橋を叩いて渡れ」かもしれない。これは、シストロムと、共同創業者のマイク・クリーガーがインスタグラムを立ち上げた当初から定義してきた価値観だ。
「ケビンは、自分と同じくらい真剣にインスタグラムに取り組む人間しか雇いたくなかったんです」と、ベースライン・ベンチャーズの創業者で、インスタグラムに出資したスティーブ・アンダーソンは言う。
「その価値基準を今も貫いています。そのせいで会社の成長が遅れたと言うこともできるかもしれませんが、結果的には正しい判断でした」
この遠回りともいうべきペースは、インスタグラムの広告事業にも及んでいる。シストロムは、広告がユーザーをうんざりさせないことを確かめながら、この事業を慎重に作り上げていった。広告主たちがインスタグラムに出稿したいと騒ぎ立てても、彼は徐々にしか間口を広げなかった。