「ロボットは必要ない、早く帰れば生産性は上がる」―UN Women事務局次長

UN Women ヤニック・グレマレック事務局次長

2015年秋、ニューヨークの国連本部で「国連持続可能な開発サミット」が開催された。そこで採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントが貧困や飢餓を撲滅する方法を見出す前提条件と認識されている。では、女性のエンパワーメントを推進させる上で、現在の課題は何なのか。そして、課題解決のために、日本はいま何をすればよいのか。

ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのために2010年に設立された国連機関、UN Women(ユー・エヌ・ウィメン)のヤニック・グレマレック(Yannick Glemarec)事務局次長に伺った。



谷本有香(以下、谷本):それぞれの国がジェンダー問題を抱えていると思いますが、現在、世界において、何が最優先課題なのでしょうか。

ヤニック・グレマレック(以下、グレマレック):優先するべきことはたくさんあり、国によって異なります。UN Womenが設立されたのは、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに対する制度的な関与がなかなか進まなかったからです。

UN Womenとして、ジェンダー平等と女性エンパワーメントへの認識は2つ。ひとつは、これが女性だけの問題ではなく、組織が関与する構造的な問題であるということ。そしてもう一つは、1995年の北京行動網領採択から20年以上経った今でも、この問題の改善が思うように進捗していないということです。

どの国でも達成できているという状況になるには、22世紀の終わりまでかかるかもしれません。たとえば世界経済フォーラムによれば、これまでの進展のスピードでは、男女の経済的機会の格差を埋めるだけでも118年かかります。2133年では遅すぎますね。

UN Womenの主要な使命はジェンダー平等と女性のエンパワーメントの進展を加速させ、2030年までに50/50の世界を達成することです。そのために、次の5つの事柄に重点的に取り組んでいます。

1. 女性の政治参画
国連のミレニアム開発目標では、議会に占める女性の割合をジェンダー平等への進歩を図る一助になると考えています。しかし、各国の議会における女性議員の割合は必ずしも大きくありません。平等な政策を推し進めるためには、少なくとも30%が女性であるべきで、多くの新たな女性の政策立案者が必要です。

2. 女性の経済的エンパワーメント
コンサルティング会社 マッキンゼー・グローバル研究所の報告書(「The Power of Parity」2015年)によれば、女性が男性と同等のレベルで経済活動に参加した場合、2025年の世界GDPは、現状のままの場合と比較すると28兆米ドル(または26%)増加すると試算されています。

また日本の場合、ゴールドマン・サックスの推定では、女性が男性と同じ水準で労働市場に参加するとGDPが13%上がります。

女性に労働市場への参加を促すことは重要ですが、家事や育児、介護に加えて8時間働くという意味ではありません。男性も家庭や社会での役割を果たし、また長時間労働を減らし、生産性を高めることが急務です。国家が社会インフラやサービス、保育施設に投資することで、保障された賃金や安全な職場、そして差別のなく働ける環境を整えることが重要なのです。

3. 女性に対する暴力の撤廃
現在、3人に1人の女性が暴力の被害にあっていると報告されており、その多くは夫婦間など親密なパートナーからの暴力です。女性に対する暴力が撤廃できていないのは、政府や社会の関与の不足と、政治・経済エンパワーメントの不足が原因です。

4. 平和・安全保障・人権活動での女性の関与
女性たちが平和運動を主導し、紛争後の地域社会の復興に力を尽くすことはあっても、和平交渉に加わる機会を得ることはほとんどありません。もし平和交渉の早い段階での女性の強い参加を確保できたら、女性は変革の立役者になれることがコロンビアなどの事例から証明されています。

5. 国家計画、政策、制度、予算にジェンダー平等を反映させること
公的予算を組む際に、橋や競技場の建設などを「投資」と捉え、保育施設などを「コスト」と捉えることは理にかないません。人々が社会に貢献しやすい環境を作ることにより多くの予算を使うように提案することです。

女性のエンパワーメント推進は女性の権利の向上であると同時に、多くの差し迫った社会問題の解決策でもあると、私たちは強く信じています。
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インタビュアー=谷本有香 構成=星野陽子 写真=藤井さおり

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