ビジネス

2016.07.12 17:00

現役起業家が教える「タックスヘイブン」の正しい使い方

カメルーンの提携業者のOvambaのCEO、COOと、商品組成担当の氏家真(写真=岡田晃奈)

借り手と貸し手をネットでつなぎ、グローバルな金融機関を作れないか-。杉山智行が、その発想を実現するために着目したのが「タックスヘイブン」だった。

世界的な金融危機を招いたリーマンショックは、信用度の低い個人への貸し付け、いわゆる「サブプライムローン」の問題が引き金を引いた。ただ、サブプライムローン自体の貸倒率は十数%とそれほど高いものではなかった。問題だったのは、元本保証している預金を、銀行がサブプライム債権を組み込んだ仕組債などの投資に回したことだ。それが金融システム不安を巻き起こし、安定化のためにバーゼル規制が強まる中で、銀行はサブプライム市場から手を引いた。その結果、「資金の出し手がいなくなって、ブルーオーシャンが広がった」。杉山智行はそこにビジネスチャンスを見いだした。

「日本はどうかというと、カネ余りなのに貸付先がなくて金融機関が困っているほど。構造的に資金が足りない国と、日本のようなカネ余りの国の投資家を結び付けることでウィンーウィンの関係を築けると考えました」

杉山は2013年、インターネットで融資を仲介するソーシャルレンディングを手がけるクラウドクレジットを起業、14年6月からサービスを始めた。資金の出し手は30〜40代のサラリーマン投資家が主流で、これまで6億円を超えるローンを成約させた。

クラウドクレジットの事業スキームは融資型クラウドファンディングと呼ばれるものだ。案件ごとに投資家から集めた資金で小規模のファンドを組成し、中南米やヨーロッパなどの資金需要国で小口分散投資する。例えば、ペルーでは日本の投資家の資金をクラウドクレジットの現地子会社に貸し付け、それを元手に現地の金融機関から中小企業向け融資の延滞債権を額面から大幅に割り引いた価格で買い取る。債権の回収は現地のパートナー企業に委託、返済金を原資として日本の投資家に分配金を支払う。税引き後の期待利回りは、例えば「ペルー小口債務者支援プロジェクト20号」では、10.4%と高い。為替リスクは伴うが、投資商品として十分に魅力的な水準といえるだろう。

債権は貸し付け元本と金利を大幅に減免した上で回収するので、借り手の返済負担は軽くなり、返済が正常に進めば再び融資を受けられるようになる。途上国でありがちな無茶な回収も行わない。「日本の投資家は純粋に資産運用の観点で当社の商品を選んでいますが、私たちとしては借り手のベネフィットも考えています」。

ヨーロッパでは主にエストニア子会社を通じて、スペインやフィンランドなどでの個人向けローン債権の買い取り、キプロスの金融事業者への融資資金の貸し付けなどを行う。

現地法人の設立先としてエストニアを選んだのは、税制上のメリットが大きいからだ。

「投資家から預かった資金を運用している以上、二重課税など無駄なコストは極力避けるのは当然のことだと思います」

エストニアでは投資利益に所得税がかからず、法人税も内部留保は非課税扱い(配当などで利益移転した時点で課税される)となるなど、外資にとっては投資しやすい環境が整っている。そのうえ、海外親会社から現地子会社への貸付利息にも課税されないので、クラウドクレジットの事業スキームにはぴったりの国なのだ。
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田原 寛 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.24 2016年7月号(2016/05/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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