ーー現在、東京とシンガポールの2カ所でギャラリーを運営されておられますね。
シンガポールで就労ビザ(EP)を取得しているので、年の半分はそちらに。シンガポールを拠点にアジア各地や欧米諸国まで足を延ばし、新しい作家さんの発掘や作品の買い付けを行っています。僕はどこでも寝られるし、基本的に何でも食べられる。それが海外で長く仕事をして成功する秘訣かな(笑)。
ーー渡航先で、仕事以外でされることは?
悲しいかな、観光したことがないんです。だいたいはホテルとアートフェア会場の間を行ったり来たりで、その道すがらのレストランで食事する。
ただ先日はロンドンで久しぶりにギャラリーを見て歩くことができました。僕は1980年代にロンドンに住んでいたことがあったのですが、そのころとはぜんぜん違って、今のギャラリーは巨大化している。クリスティーズ、サザビーズ、フィリップスなど大手のオークションハウスがNYにあり、その支店がロンドンや香港にある。
アメリカでは南アメリカを含めたラテンの作品、ロンドンではヨーロッパ系、香港ではアジア系の作品を展示していて、世界のアートマーケットの縮図がギャラリーを回るとよくわかるんです。
ーーなるほど。そもそもアートフェアとはどのような場なのでしょうか。
基本は選ばれたギャラリーが旬の作家やこれから売り出したい作家、既に没した評価の高い作家の作品を売る場所なのですが、一大社交の場でもあります。世界中の主立った美術館のディレクターやキュレーター、翌年のヴェネツィア・ビエンナーレのディレクター、アメリカのコレクターなどが来るわけなので、ギャラリストとしては彼らとの交流の場として非常に重要です。
ーーカンヌやトロントで行われる国際映画祭のような位置付けですね。では現在の日本のアートシーンについてはいかがですか。
「アートは国際的なコミュニケーションの最も有効なツールである」ということについて、日本の経営者や富裕層たちがあまり気づいていませんね。たとえばNYのMoMAやシンガポールのSAMのボードメンバー(役員)のほとんどが経営者のトップです。これは背景として寄付に対する税制優遇があるからですが、一方で自国の文化に対する意識の高さの表れだと思う。