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2016.07.01

時代の先を行く発明をした「イノベーター」たちにあった共通点

アップルのイベントで登壇したスティーブ・ジョブズ(2010年1月27日撮影、Photo by Justin Sullivan/Getty Images)

科学の歴史をひもとくと、数十年、数百年先の世界を正確に見通していた“革新者たち”の存在に気づく。なぜ彼らには未来が見えたのか。稀代の科学ライター、スティーブン・ジョンソンがその謎に迫る。

重要なイノベーション(技術革新)の大半は–少なくとも近代では–同時期にいくつもの発明が重なる形で現れる。既存の概念と新しい技術を組み合わせることで、新たなアイデアを実現できる可能性が浮上すると、途端に世界中でその実現に取り組む人々が現れるのだ。

たとえばレンズがどのように誕生したかを見てみよう。レンズは複数の重要な出来事があったからこそ生まれた。まず、ムラーノ島(イタリア北東部)で発展したようなガラス作りの技術。次に、高齢の修道士が巻物を読む際に重宝していたガラス製の「オーブ(球体)」の普及。さらに、眼鏡の需要を急増させた印刷機の発明だ(もちろん、ガラス原料に含まれる二酸化ケイ素の性質もレンズの発明には欠かせなかった)。

こうした出来事がレンズの発明に実際に及ぼした影響の大きさを正確に知ることはできない。また発明から長い年月が過ぎた今となっては、影響が小さすぎて見つけられない出来事もあるだろう。それでも、どんな出来事が発明に影響を及ぼしたのかを探ることに意義はある。なぜなら私たちは現在も、昔と変わらない技術革新の時代を生きているからだ。

けれども、発明が同時多発的に起きるのが原則なら、例外的なケースはどう考えればよいのだろうか。1800年代にコンピュータ史の礎になる文書を生み出したチャールズ・バベッジとエイダのように、事実上、地球上のほとんどすべての人間より100年も時代の先を行っていた事例もあるのだ。

イノベーションの大半は、その時点で存在するツールや概念を用いることで起こる。しかしときおり、特定の個人や集団が、まるでタイムトラベルをしてきたかのような飛躍的な発展をもたらす。なぜ、そんなことが可能なのだろうか。なぜ彼らは、同時代の人間には見えない、近未来の技術のさらに先まで見通せるのだろうか。

ありがちな答えは、彼らを「天才」に分類することだ。どんな偉人の説明にも使えるが、果たして偉業をなしたから天才なのか、天才だから偉業をなしたのかは曖昧だ。

ダビンチが15世紀にヘリコプターを想像できたのは、彼が天才だったから。あるいは、バベッジとエイダが19世紀にプログラム可能なコンピュータを想像できたのは、2人が天才だったから。そう言うこともできる。3人とも、優れた知的才能に恵まれていたのは間違いない。だが歴史上には、高い知能指数に恵まれながらも、数十年あるいは数世紀も時代の先を行く発明を生み出すに至らなかった人間がいくらでもいる。

たしかにタイムトラベラー型の発明の一部は、彼らがもともと持っていた知力のなせる業に違いない。しかし、私はこうも考えるのだ。彼らがそのアイデアを育んだ環境や、彼らの思考を形づくるに至った関心事、それに人間関係も、同じくらい強く影響しているのではないかと。

説明にならない「天才」という分類以外に、タイムトラベラーたちに共通点があるとすれば、それは彼らが、自分たちの専門分野の片隅で、あるいはまったく異なる学問同士の領域が交わる地点で仕事に取り組んでいたことだ。
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スティーブン・ジョンソン=文

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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