長期的な視野で企業の成長を支えてきたKPMGジャパン。近年はスタートアップ支援にも力を入れている。未来の世界的企業をどう育てるのか。その活動とビジョンを聞いた。KPMGジャパンは、あずさ監査法人、KPMG税理士法人、KPMGコンサルティングなど、7つのプロフェッショナルファームで構成され、監査・税務・アドバイザリーの3つの分野で活動している。中でも上場大企業向けのサービスがよく知られているが、IPOをはじめ、企業成長に関する支援も数多く行ってきた。
「今では大企業となったクライアントの中には、実は上場前からお付き合いがあるという企業も多くあります。企業の成長段階から携わる活動は、数十年前から続くものです」と話すのはあずさ監査法人 企業成長支援本部の倉田剛氏だ。
近年は、スタートアップの段階から支援したり、大企業を巻き込みながら企業成長の原動力となるイノベーションの促進を図ったりと、さらに早い段階へと活動領域を広げている。
その背景について同本部の轟芳英氏は「経済全体を盛り上げることで、そこから生まれる価値を共有するというCSV(Creative Shared Value)の思想に通じるものがあります。中長期的な視点で日本経済と我々のビジネスをともに発展させたいということです」と説明する。
こうした支援活動を具体化した象徴的な取り組みが、2013年から始まった「成長企業倶楽部」だ。年に数回のペースで開催、起業家やその支援者など成長企業に関わるさまざまな立場の人々が集う。ここでは設定したテーマに関する有識者の講演に加え、参加者同士による議論を含めた交流の場を提供している。
成長企業倶楽部は、ネットイヤーグループの石黒不二代代表が登壇した第1回の「日本の成長企業発展のために」から始まった。
初期のころに扱っていたテーマは、資金調達やグローバル戦略というように、企業のそれぞれの成長ステージにおける課題解決を意識した内容が中心だった。それが最近では「ヘルシー・エイジング・ビジネス」や「ロボティックス」といった、イノベーションによる新ビジネスの促進を意識したテーマも増えつつある。
「産業やテクノロジー、ビジネスといった様々な要素の『掛け算』によって、イノベーションや新しいビジネスモデルが生まれると考えています」(轟氏)。そして、それらの要素が作用し合う世界を「イノベーションを育む土壌」と表現する。その土壌を形成し、各要素同士の掛け算を補完するものとして、テクノロジーを切り口とするテーマを扱うことも多くなってきた。
あずさ監査法人でテクノロジーイノベーション支援部長を務める木下洋氏は指摘する。「たとえばEコマースは小売業がITを利用して提供するサービスです。レガシーと言われる分野を含め、あらゆる産業がテクノロジーなしでは語れなくなってきました」。
実際、倉田氏は、ビジネスを支援する立場としても、ユーザー側としても、先端テクノロジー企業に接する機会が増えていることを実感すると話す。「午前中に訪問したクライアントが今後展開しようとしているAI(人工知能)を用いた新しいサービスを、午後に訪問した別の会社が既にテスト導入している、というような場面にも遭遇しました」と明かす。
日進月歩でキャッチアップするのが難しい先端テクノロジーの話題は、ベンチャー企業だけでなく、新たなビジネスモデルや業務改善を模索する大企業にとっても有用だ。ただし「テクノロジー自体を深く知るというより、テクノロジーをどうビジネスに応用できるのか、といった視点が大事」(木下氏)。今後もテクノロジーに留まらない、イノベーションを育む土壌づくりに寄与するテーマを幅広く扱う予定だ。直近の構想としては「エデュケーション」や「ツーリズム」「宇宙」などを視野にいれている。