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2016.07.01 16:00

時代の先を行く発明をした「イノベーター」たちにあった共通点


エドゥアール=レオン・スコット・ド・マルタンビルを例に挙げよう。エジソンが蓄音機の発明に着手する一世代も前に録音装置を発明した人物だ。彼が“音波を書く”というアイデアを思いついたのは、速記法や印刷技術、人間の耳の構造研究というまったく異なる分野から似たような仕組みを借りたからだ。

また、エイダがバベッジの解析エンジンに芸術表現の可能性を見出すことができたのは、高等数学とロマン派詩の世界がぶつかるユニークな地点で人生を送ってきたからだ。「人と感覚の異なるところ」があったおかげで、つまり物事の表面的な見かけの奥にあるものを見抜くロマン主義的な直感を持ち合わせていたおかげで、バベッジには想像できなかった、記号を操ったり、作曲したりできる計算機を想像することができたのだ。

タイムトラベラーたちの存在は、すでに確立されている専門分野で仕事に取り組む際の「利点」と「制約」を教えてくれる。

自分の専門領域の範囲内にとどまれば、漸進的な改良を実現しやすく、その時々の歴史的状況によって近未来の技術の扉を開くことができる(もちろんこれは大切なことだ。進歩は漸進的な改良抜きには達成されないのだから)。しかし、同時にそうした領域の壁は“目隠し”にもなりうる。その境界を超えて初めて気づく、より大きなアイデアの存在を見えなくしているからだ。

タイムトラベラーたちには、おしなべて多彩な趣味の持ち主が多い。そして、異なる専門分野を“交配”させるのもうまい。それが趣味人の強みだ。書斎やガレージが足の踏み場もないほど雑多なモノで散らかっていれば、それらを組み合わせるという発想も生まれやすい。

ガレージがイノベーターたちの作業場の象徴になった理由の一つは、まさにそこにある。ガレージは、パーテーションで間仕切りされたオフィスとも、大学の研究室とも違う。職場や学校から離れていて、専門領域の周縁への興味や関心が育ちやすく、発展していく余地があるのだ。そこでは一つの分野やビジネスではなく、そこに集う人たちの幅広い興味や関心が反映され、さまざまな知のネットワークが形成されるのだ。

当代きっての“ガレージ型イノベーター”といえば、スティーブ・ジョブズだろう。彼はスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチで、新しい体験との出会いが創造力を引き出してくれたという逸話を紹介している。

たとえば大学を中退し、カリグラフィー(文字を美しく表現する書法)の講義に潜り込んだことが、最終的に美しいフォントを搭載したマッキントッシュ・コンピュータのグラフィック・インターフェイスの開発につながったこと。30歳でアップルを追い出されたおかげで、ピクサーを設立し、アニメ映画を制作することができ、さらにNeXTコンピュータの開発につながったこと。ジョブズはこう語っている。

「成功者として感じていた重圧を捨て、もう一度初心者になるという身軽さを手に入れると、物事を疑うようになる。おかげで私は、人生で最もクリエイティブな時期を送ることができました」
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スティーブン・ジョンソン=文

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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