確かにAIは今後の重要な成長分野であり、アップルの「Siri」は競合他社の技術に比べて劣っている。しかし、アーメントは重要な点を見落としている。それは、アップルがこれまで革新的なテクノロジーで勝負をしてきた企業ではないということだ。アップルが得意とするのは、世の中に既に出回っているテクノロジーを使い、他に類を見ない素晴らしい製品を作ることだ。
要するにアップルはテクノロジー企業ではなく、デザインとエンジニアリングにおいて史上最高の会社なのだ。さらには、アップルはサプライチェーンにおいても他社を凌駕する強みを持っている。つまり、アップルとブラックベリーは全く異質の企業であり、むしろ「次世代のトヨタ」と評した方が正しいと言えるだろう。
スティーブ・ジョブスの天才性はマーケティングにあった
スティーブ・ジョブスが残した業績の一端でも見れば、彼がマーケティングの天才であったことがすぐわかる。ジョブスは神業的な嗅覚で消費者のニーズをくみ取り、製品のデザインや機能を大幅に見直して優れた製品を数多く生み出した。
1970年代には多くのメーカーがパソコンを製造していたが、アップルⅡやマッキントッシュの人気が突出していたのは他社製品よりも機能が優れていたからではない。簡単で楽しく使えることが消費者に支持されたからだ。同様に、iPodは音楽プレーヤー業界に後発で参入したが、他にはないユーザー体験を提供したことで大成功を収めた。また、iPhoneが誕生する前からスマートフォンは存在していたが、当時も現在もiPhoneを超える端末は存在しない。
これらは全て驚異的な成功を収めたが、特筆すべきはどの製品も世界初の最先端テクノロジーを搭載してはいないことだ。それどころか、アップルはここ数年、スマートフォンの機能面でサムスンに後れを取っている。アップルは、最先端テクノロジーの開発に注力するよりも、デザインや機能の面で革新的なユーザー体験を生み出すことに専念している。
既存のテクノロジーを使うことで競合他社よりも研究開発費を抑えつつ、プレミアム価格で販売するというビジネスモデルが過去10年間はうまく機能し、アップルは莫大な利益を上げることに成功した。これに加えて、現CEOのティム・クックが構築した驚くほど効率的なサプライチェーンが同社にさらに大きな利益をもたらした。