個人的な話で恐縮だが、私は2015年10月にレオス・キャピタルワークスの社長に返り咲いた。そもそも当社は私が03年に創業した会社で、そのときも社長だった。08年にリーマン・ショックがあり、結果的に現在の親会社に私の持分をほぼタダで売却し、責任を取ってヒラ社員に戻る。しかし、その後8年間で実績を上げて、昨年社長に返り咲くことになった。
私自身、たくさんの会社の社長を見て投資をする仕事で、今まで6,000名以上の社長と会ってきた。実質的に解任された社長がまた同じ仕事をしながら、同じ会社の社長に返り咲くということは、日本一クラスの社長ウォッチャーから見ても珍しいことだと改めて思う。またそのような体験を経て思うのは、会社のガバナンス(統治)は3つの信頼、1. 株主の信頼、2. 顧客の信頼、3. 従業員の信頼によって支えられているということである。
私自身は大株主だったが、株主でなくなり、その支配株主から社長を外されたら、社長は続けられない。それが株式会社の仕組みである。私は新会社の株主から、社長としての信頼がないので解任されることになる。そしてそれは当然のことだ。
それでも仕事が続けられたのは、かろうじて2. 顧客の信頼と 3.従業員の信頼が「残っていた」から。一度、実質的に会社を潰したわけだから、これがなければ仕事の継続も難しい。一文無しにはなったけど、信頼は一部で残っていたので、それをベースに仕事をし、成果が出たので、また、1. 株主の信頼を得ることができて、社長に戻ることになった。そしてこれらの信頼があれば、そこで仕事を継続できるし、なくなったらまた去ることになる。それだけのことだ。
コンビニエンスストア最大手セブン-イレブン・ジャパンの社長の交代案が役員会で否決された、というニュースが飛び込んできた。そしてそれはセブン-イレブンの成長の立役者でもあった鈴木敏文会長が経営を退くことへと発展していった。またご存知のようにクックパッドも、創業社長が株主権を行使して、前社長を解任したということで、大きなニュースになっている。15年は大塚家具の父娘による社長指名競争がメディアでも大きく話題になった。
今後、このような事例は増えていくであろう。その背景として、「伊藤レポート」の存在がある。14年に伊藤レポートが「持続的な成長を続けていくために、上場企業は企業価値向上のために株主と健全な緊張感を持った対話をすべきである」という提案をした。それを受けるような形で、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードなどの制度が設立され、コーポレートガバナンスの制度は整備されつつある。
それは機関投資家と上場企業が緊張感ある対話をする事によって、企業価値を高めていこうという流れを加速している。緊張感ある対話とは、ズバリ、株主が経営者としてふさわしいのかを判断して、ダメならよりよい人に変えていく、ということも当然に含まれている。