スティーブ・ジョブズの育て親 「コーチ」と呼ばれた男の功績

ビル・キャンベル (Photo by C Flanigan/Getty Images)


理念は「社会にお返しをすること」

「彼の理念は社会にお返しをすることで、報酬を受け取ることを拒み、無償で我々を手伝ってくれた。技術的な知見が特別深かったわけではないが、社員たちの知性やコミットメントの度合い、考えの明晰さなどを見極めることにかけてはずば抜けた能力を持っていた」とシュミットは話す。

「彼は必ずハグをして我々を歓迎してくれ、皆から愛されていた。ひとたび彼の人間性を理解すると、何の疑問も抱かずに彼のアドバイスを受け入れることができる。彼は本当に素晴らしかった」

キャンベルはグーグルとアップルの双方に助言を与えていたが、次第に両社のライバル関係は激しくなっていった。シュミットもキャンベルと同じ時期にアップルの取締役を務めていたが、2009年に辞任している。しかし、キャンベルはその誠実で思慮深い人柄で、両社のアドバイザーを務め続けた。「彼がプロダクト開発に関与していなかったということもあるが、とても口が堅く、経営陣から絶大な信頼を得ていた」とシュミットは話す。

アップルは声明で、「ビル・キャンベルは、多くの社員にとってコーチでありメンターだった。また、数十年にわたり当社の幹部社員として、アドバイザーとして、そして最終的には取締役として我々の家族の一員だった。アップルに期待する人が少なかった時代から我々のことを信じ、事業が好調な時も苦境に陥った時も計り知れない貢献を果たしてくれた。我々は彼の見識や友情、ユーモア、そして愛情を決して忘れない」と述べた。

筆者は幸運にもキャンベルとインタビューや会合などで直接話をする機会に数度恵まれた。彼の役割について質問をすると、彼は必ず自分がサポートしている起業家やエグゼクティブたちにスポットライトが当たるように心がけていた。また、彼は自分に多くのことをもたらしてくれた業界に恩返しをすることがモチベーションになっていると常々語っていた。

「私は変革を起こすようなことは何もしていない。私はマーク・アンドリーセンのような優れたビジョンを持っているわけではない。私は単なるオペレーション屋に過ぎず、会社のあるべき姿や、経営者がどのように組織を作るべきかをアドバイスしているだけだ」とキャンベルは2010年のインタビューで述べている。

キャンベルは自分の役回りをディズニーキャラクターに例え、「ジミニー・クリケットのようなものだ」と表現したことがある。ジミニー・クリケットとは「ピノキオ」に登場し、「常に良心に従いなさい」とピノキオを諭すコオロギだ。
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編集=上田裕資

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