市場のファンダメンタルズや景気が、あらゆる上場企業の評価に影響を与えることが不可避であることは言うまでもない。しかしこうした議論は、なぜ最近のIPOが概して失敗に終わっているのか、その本当の理由から目を逸らさせるものでもある。本当の理由は、新株を市場に売り出す、そのプロセスそのものが崩壊しており、深刻な利害の衝突に満ちていて、基本的には個人投資家に失敗させるように作られているのだ。
大げさな話だと思われるだろうか。ここで、IPOの仕組みを見てみよう。根本的にはIPOとは、問題のある住宅を買いとり、修理をした上で転売するという、ハウスフリップと同じことである。ただ、家を買ってから市況が上昇するまで1,2年待ってから転売する個人とは違い、資金力豊富なIPO投資家は、投資銀行とグルになって、初期投資から大きな利益をあげるまでに、わずか数日しか待たないこともある(一般投資家の活発な買いが入り、株価が上昇した段階で売ってしまう)。そして、ハウスフリップが金融危機に向かっていく際に表面化していくように、巻き添え被害の大部分負わされることになるのは、結局は一般大衆なのである。
こうしたことが起きる背景には、多くの個人投資家が、企業の上場ということについての理解が足りないからである。たとえば、発行価格を決めているのは市場ではなく投資銀行である、ということを知らない人がいる。同じ投資銀行が、個人富裕層や巨大年金ファンド、投資信託など機関投資家に対して、一般投資家よりずっと前に、こうした株式の購入機会を提供しているということも、知らない人がいる。さらに、こうした企業に上場の何年も前から巨額の賭け金を投じてきていたベンチャーキャピタルファームが、6か月のロックアップ期間が満了した時点で、株式を現金化したくてたまらないということに気がついている人はさらに少ない。
これら要因が一体となって、仕組み全体の中では基本的にはカモである平均的な投資家にとって不利な状況が生じている。しかし多くの投資家は、こんな風に利用されていることに気がつくどころか、まるで気にしていないようなのだ。彼らにとって大事なのは、有望な新しいIPO銘柄が売り出されるなら、一枚噛んでおきたいと言うことだけである。評価額が高すぎるということもない。なぜなら、少なくとも短期的には、株価は上昇するからだ。
アマゾン、フェイスブック、グーグルといった銘柄が期待に応えて長期的な価値を生み出している以上、次の銘柄もそうなるかもしれない、という思考回路である。そこで彼らは、次代のユニコーン企業に一枚噛んでおきたいと追いかける。問題はもちろん、こうした企業は異常な例外なのであって、標準ではないということだ。実際彼らは、短命の興奮に乗ったものの、数ヶ月後には大きな音をたてて地面にたたき落とされたGoProやTwitterといったたぐいの企業のせいで、すっかりやさぐれてしまっている状態だ。
皮肉なことに、最近沈没したIPO銘柄の中のいくつかは、実際には消費者のニーズに応える革新的な製品やサービスを提供する能力のある優秀な企業である。たとえばFitbitだ。この会社はさまざまなデバイスを販売しており、第4四半期の売り上げはアナリストの予想値を上回っている。それでも株価はこの1年、50%以上下落した。理由は単純だ。この会社にはそもそも、上場後に投資家が積み上げたほどの価値はなかったのだ。
こうした問題を解決するにはどうすればよいのだろうか。理想を言えば、ロックアップの期間を6か月から1年間に延長し、投資銀行が機関投資家のためにIPO初値を操作することを著しく制限することだろう。今の時代に、企業がテクノロジーを活用して、オンラインで上場することができないのはどうしてなのだろう。そうすればIPOのプロセスはもっと公平かつ透明になり、全ての投資家に開かれることになり、株式の供給不足によって人工的に高い評価を作り出すのではなく、収益や業績といった要因が企業価値を決めることになるだろう。想像してみて欲しい。
透明性が高まって、もっと条件が公平になるまで、次世代のユニコーン企業を捉えようとしている自称IPO投資家は、宝くじでも買っておくほうが話を単純にできるだろう。結果もおそらく大差ない。