第一は音楽産業の中での成長分野を一段と強化することである。閉塞感がある産業だが、実はPCやスマホのサブスクリプション有料配信は高い伸びを示している。過去5年間で11倍の著増で、いまや有料配信のメジャーに躍り出ている。
もう一つの成長分野がライブコンサートだ。10年前に比べるとコンサートの公演本数は2倍、入場者数は2.5倍、年間売上高は3倍の2,750億円に達している(コンサートプロモーターズ協会加盟会員ベース)。普段はスマホでバーチャルな音楽を楽しみ、余暇にはライブでリアル空間を共有するのが、今どきの音楽ライフだ。
音楽産業では、このようなライフスタイルを巧みに取り込んだビジネスが勝者の公式になるのだろう。
第二はグローバル展開である。かつてアジアを中心に日本の音楽は相応の存在感を示していた。だが、いまや世界はK-POPが席巻している。1990年代に、エルサレムの街角で日本のアニメソングを口ずさむ子供たちを見掛けた時の驚きはもはやない。日本の音楽をいま一度、グローバル産業として戦略的に成長させていきたい。アジアだけでも30億人以上のマーケットなのである。
そのためには官民協業、関連事業者間の横断的プロモーション、そして権利保護がキーワードになる。前二者に関してはクールジャパン戦略が徐々に開花しつつあるが、後者が悩ましい。
世界の音楽産業統計に不可思議な数字がある。中国の一人当たり音楽売り上げが日本の250分の1しかないのである。中国人も音楽が大好きのはずだ。知人の中国人が言う。「ああ、コピー、コピー。海賊版が多いから正規品の統計はごく小さいんだ」。13億人の巨大市場では知財管理が最大の課題である。東南アジアも大同小異だ。
カラオケ最大手のH社長が言う。「我々も海外展開は真剣に考えていた。でも、国内では次々に新製品を投入するのに、海外では旧式機器のハードをコピーして何年も使っている。ビジネスにならないのです」。そういえば、ネバダの酒場の機器も10年以上前のタイプだった。
しかし、日本政府は知的財産戦略として精力的に対応策を講じつつある。著作権保護のために新組織も次々に設立され、積極的な活動を開始した。TPPによる知財保護も追い風にすべきだ。
H社長は感度抜群の「マイマイク」を片手にウインクした。「グローバル展開は諦めていませんよ。先年、国連でスピーチしました。歌は世界の健康法だとね」