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2016.03.03 18:41

UBSの“コンシェルジュ”が語る、世界の「超富裕層」の知られざる悩み


次世代の教育の手助けもウェルス・マネジャーに求められる重要な役目だ。

UBSウェルス・マネジメントが各国から顧客の親子10〜12組を招いて開催する次世代承継プログラムのセミナールーム。

「インドネシアでも同じような問題が起きている」「ブラジルでもそうだ」

資産や事業の承継を巡るディスカッションではこのような声が上がるという。

「若い後継者や実業家を集め、数日間金融などについて講義も行います。閉ざされたドアの中で話し合うと安心し、彼らも自分たちがビジネスで抱える様々な悩みを饒舌に話し出します」(同前)

一方で現在、女性資産家の数が世界的に大きく増えている。UBSとPwCの共同調査によれば、過去20年間で男性ビリオネアの数が5.2倍となったのに対し、女性の増加率は6.6倍に達した。中でもアジアはこの傾向がより顕著で、しかもその半数以上がセルフ・メイドだ。また、アジアの女性ビリオネアの実に96%が単に親の遺産を受け継ぎ塩漬けにしている富豪ではなく、実際に自分たちのビジネスで資産を作り出す“アクティブ”な経営者だという。

「アジアは西欧諸国に比べ女性のビジネス参入により寛容であることに加え、かなり高い水準の教育を受ける女性が増えたことがその要因といえます。セルフ・メイド同様、ファミリービジネスの後継者に女性が選ばれるケースも多い。女性は男性に比べリスクへの対処がよりスマートで、的確な決断も下します。海外留学の経験を母国でのビジネスに生かした成功例も多い。また慈善事業への関心も非常に高いといえます」(同前)

ウルトラたちは自分たちの財産のよりよい使い道を求めている。

「彼らの多くは自分たちの成功を社会に還元しなければならないと考えています。ですが“寄付”という伝統的なやり方では、資金の使い道をコントロールできない場合もあります。そこで我々は、『インパクト・インベストメント』を提案しています。例えば『新薬を開発する製薬会社に投資したい』といったウルトラの選好に基づき運用し、そのリターンが25%であればそのうちの5%程度を再投資に回していくというやり方です」(同前)

特にアジアのウルトラたちは、ビジネスに対する信念が強いとスタッドラーは話す。

「中国を訪れると、『信念は担保に入れられない』という言葉を聞かされます。欧米に比べ、より家族のアイデンティティを重要視し、独自の運命を全うしたいと考えるのがアジアのウルトラの特徴です。自分の価値基準、スタンダードを失わずに行うことができるのが本当によい投資なのです」

多層的な欲求が行き交うウルトラ・ビジネスの世界ーー。その光景をウェルス・マネジャーは目の当たりにしていた。

数字で見る超富裕層の動向

44% ーー 1995年から20年を経ていまだに資産を守っているビリオネアの割合。

6.6倍 ーー 過去20年における女性ビリオネアの数の伸び率は6.6倍と、男性の5.2倍に比べて高くなる。

3,480億円→1兆3,200億円 ーー 過去20年における世界のビリオネアの平均資産の変化。世界のGDPの伸び率が2.5倍なのに対し、3.8倍の伸びを見せている。
※「ビリオネア・レポート」より。1ドル=120円換算。上記の数字は、2015年12月に発表されたUBSとPwCの合同レポートによる。全世界の1,300人以上のビリオネアの資産を過去19年さかのぼって調査。世界の主要14のビリオネア・マーケットを対象とし、全世界の75%のビリオネアの資産に値する。

ジョセフ・スタッドラー(Josef Stadler)
1963年、スイス生まれ。ハーバードビジネススクールにてMBAを取得。スイス・ユニオン銀行などを経て、2009年より、UBSウェルス・マネジメントの超富裕層顧客担当部門「ウルトラ・ハイ・ネット・ワース」のグローバルヘッドに。

文=皆川尚慶

この記事は 「Forbes JAPAN No.21 2016年4月号(2016/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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