こうしたシンギュラリティ大学のプログラム参加者に共通しているのは、世界に影響を与え、より良くしようという情熱にあふれていることだ。非常に聡明で、起業家精神に満ちている。つまり、リスクをいとわず、新しいことを試し、失敗を恐れない。
また、自分のアイデアをシェアすることも大切だ。自分のアイデアを人に話し、アドバイスを取り入れて臨機応変に変えながら成功に導いていく姿勢は、起業で最も重要なことの一つだ。自分だけで温めておきたいという起業家は多いが、それでは成功はおぼつかない。話さなければ、誰もその製品を買いたいとは思わない。アイデアをより良くする唯一の方法は、シェアすることに尽きる。
良いアイデアはさまざまな場所から生まれるということを認識すべきだ。ダイバーシティ(多様性)を受け入れる環境をつくることが非常に重要である。その点、シンギュラリティ大学では世界95か国から何千人もの参加者が学んできた。企業や政府、大学、研究機関、非営利団体など、出身もさまざまだ。これが重要なのだ。
というのも、業界やグループが異なると、特定の問題に対するマインドセット(ものの見方)も変わるからだ。あらゆるアングルから見た、さまざまな意見を集めれば、より良い深みのある解決策が出やすくなる。
誰もが恩恵を受けられる未来のために
次世代のリーダーが築く「未来の世界」は、ピーター・ディアマンディスが共著書『楽観主義者の未来予測―テクノロジーの爆発的進化が世界を豊かにする』(上下巻)で語っているように、「豊かな世界」であってほしい。限られた高価な資源を求めて(国同士が)戦うことで、経済システムや社会が成り立つような「欠乏の世界」でなく、テクノロジーの力で豊かな資源を創り出し、誰もが恩恵を受けるような世界だ。
人類の大きな課題を解決することで、それが可能になる。われわれは、こうした世界の実現に向けて、スタートアップや政策イニシアチブなどがどれだけシンギュラリティ大学にインスパイアされたかを究極の成功の尺度とみなしている。
一方、格差拡大も、われわれがよく話し合う問題だ。テクノロジーの進化で雇用崩壊が起こっているのは事実だからだ。テクノロジーのおかげで、誰もが基本的な生活を送れるようになるが、ピーターいわく、われわれは「持つ者と、持たざる者」の世界から「持つ者と、ものすごく持つ者」の世界へと移行している。
とはいえ、誰もが交通手段や食料シェルター、水、ネット、ヘルスケア、教育を保障され、生存(という基本的なこと)を案ずる必要がない世界がやってくる。そうすれば、自分の成長など、個人的なことにフォーカスできるようになる。
これは、決して共産主義などという古臭い政治的マインドセットではない、新しい考え方だ。誰も置いてけぼりにされない世界。もはや低所得層や中流層、中の上といった境界線のない「完全スペクトラム」の世界だ。
最下層の人たちがかつてないほど底上げされた世界―。テクノロジーによって、その日が訪れると信じている。
ロブ・ネイル◎スタンフォード大学で機械・材質科学、製造エンジニアリングの修士号を取得。1999年、がん研究・創薬ラボオートメーション・ベンチャー、Velocity 11を共同創業。2010年、シンギュラリティ大学エグゼクティブプログラムに参加。2011年から現職。エンジェル投資家でもある。