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2016.02.17

アベノミクスのブレーンが指摘する、GPIF運用の欠点[数字で読み解く日本経済]

Patricia Soon / shutterstock

GPIFの2015年7~9月期の8兆円の運用赤字が大きな話題を呼んだ。しかし、短期的視点での批判ではなく長期平均収益率を見るべきだ。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は11月30日、2015年7~9月期の運用実績益がマイナス7兆8,899億円に上ることを発表した。

GPIFは、厚生年金、国民年金の積立金である。日本の年金制度は、勤労者が支払う年金保険料を、年金を受け取る人への年金給付にまわすという「世代間扶養」の原則によって設計されている。1960年代終わりに年金設計をした際、高度経済成長から若者の所得が大きく伸びるなか、終戦後の混乱期を生きてきた資産がない退職世代と世代間助け合いを打ち出し、税金によらない所得再配分の仕組みを考えた知恵だった。こうした「世代間扶養モデル」は、高度成長期のように、退職世代よりも勤労世代のほうが人口も多く、生涯所得が高いという状態では、非常にうまく機能することが知られている。

ところが、日本では現在、人口が減少に転じ、寿命が延び、さらに「失われた20年」を経て、生涯所得の成長も止まってしまった。こうした社会の「世代間扶養モデル」では、生涯支払年金保険料が生涯年金給付受取額を上回る、つまり年金制度が生涯所得の意味で「損」な仕組みになってしまうのである。

日本の年金設計者たちは高度経済成長の終焉を予想していたのであろう。「世代間扶養モデル」に修正を加え、保険料の一部を積み立てる仕組みもすべりこませていた。GPIFが運用するのは、毎年の年金保険料収入からその年に支払われた給付金の差額をずっと積み立て、運用してきた「積立金の累積」なのである。これが、少子高齢化の進行、成長鈍化が起きても世代間不公平が耐えられなくなる(=年金制度破綻)ことを防ぐための機能を担うことになった。

積立金を運用することで得られる毎期の収益が高ければ、GPIFから政府の年金会計に上納することができて、若者に対する保険料引き上げや、退職世代の年金給付減額の程度を軽減することができるからである。

これまで積み立てたGPIFの資産総額は、15年9月末に135兆円を超えている。GPIFが長期的視点にたって、資産運用でどれだけのリターンを稼ぐことができるかが、現在の勤労世代、まだ生まれていないような将来世代が年金制度から恩恵をうけることができるかの鍵を握っている。
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伊藤隆敏 = 文

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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