「愛は数値化できるか?」多くの人が考えたことがあるかもしれない空想のテーマだ。
ファッション界には、日本を愛することに関しては、他の追随を許さないデザイナーがいる。その名はポール・スミス。彼は1984年から、欠かすことなく毎年2回来日している。それはさしずめ離れ離れになった恋人たちの、遠距離恋愛といったところか。この習慣は、彼が2000年にナイト爵位(SIR)を授与されたあとも、11年に日本が震災に見舞われた時でも決して変わることがなかった。これだけでもサー・ポール・スミスが我々に対し、律儀にそして真摯に向き合ってくれていることがわかる。気難し屋の多いこの業界では、まさに奇跡の存在と言える。
ところで、彼が英国からはるばる来日するために移動した距離は、31年間で623,416kmになる。これは地球16周分に相当するとてつもない数字だ。これでも愛は数字で測ることはできないのか?
その答えは、いわずもがなだ。
大震災ニモマケズ、愛あるショーを開催!
2011年3月11日の震災以降、多くの外資系ブランドのスタッフが日本を離れていくなか、4月の展示会に向け単独で来日したのが、ポール・スミスだ。到着するやいなや、いつも通りのルーティーンで生活し、ミーティングや取材をこなすかたわら、全国のスタッフを励まし、さらには渋谷店、丸の内店、スペース店へ出向き、ゲストたちを手厚く接客した。
また、同年10月には、『メルセデス・ベンツ ファッション・ウイーク 東京』において、12年春夏のメンズ、ウィメンズのコレクションをTOKYO用にアレンジして披露。ファーストルックのモデルは、日本人カップルを登場させ、自身は「I LOVE JAPAN」のシャツを着用するという粋な演出をした。ポールが発した冒頭の挨拶は、復興に向けて頑張る我々を思いやる優しい言葉だった。