地方の人口減少が止まらない中で、「交流人口」を糸口に地方活性化を試みるのが「ちよだいちば」を運営する大塚洋一郎だ。「ちよだいちば」は大手企業が集結する東京・千代田区の一画にある市区町村のアンテナショップ。普通のアンテナショップと違うのは、都会の人々を商品の産地に連れ出してしまう点だ。
「例えば『こどもケチャップ』は愛媛県西予市の遊子川という小さな集落で栽培されたトマトで作られています。これを作っているお母さんたちは赤いTシャツに緑のバンダナを巻いて、トマトみたいな格好になって頑張っている。ぜひこの人たちを紹介したくて、2015年10月に、このケチャップの生産現場を見に行こうというツアーを組んだら、あっという間に15人の定員に達したんです。地方の特産品の美味しさに感動した人たちが、それを作っている土地や人々に触れて交流が生まれる。それが、『交流人口』なんです」(大塚)
実はかつて大塚は経済産業省の役人の立場でこの問題に取り組んだことがある。定年直前の2年間に農商工等連携促進法の策定から施行・運用までを担当。退職後にNPO法人を設立して、同法に基づき地方の雇用創出を助けていた。
14年6月に「ちよだいちば」を開店したのは、地方で作られた物が出荷されていく先を都会に作るためだった。だが思わぬヒントがそこにあった。地方の特産品を食べた都会の人が「美味しい」と感動することで元気になっていく。政策や法律ではなく、「食」が問題を解決するかもしれない。
「ちよだいちば」にとっての最初の成功例となった遊子川との交流は、人口350人足らずの地に20人のパートタイムの雇用を創り出し、食を介した物と人の循環という「副産物」を生んだ。
大塚洋一郎◎1954年生まれ。大学院修了後、科学技術庁に入庁。2007年、経済産業省に出向。09年、定年退庁しNPO法人を立ち上げる。