議会の賛同が得られず、オバマ大統領が大統領権限を行使した問題には以下の例があり、一部については訴訟が起こされている。
移民政策
議会は2010年、不法移民の子供に米国の市民権を認める移民制度改革案 (DREAM法)を否決したが、オバマ大統領はその後、幼少時に親と共に不法入国した若者に対する一定期間の強制送還の停止などを認めた措置(DACA)を大統領令として発令。これにより、すでに60万人以上が滞在許可を申請した。テキサス州などが行政権の乱用だとして訴訟を起こしており、この問題は今後、最高裁で争われる可能性がある。
避妊具への医療保険適用
医療保険制度改革法(オバマケア)には避妊に関する規定がない。だが、オバマ政権はこれを「予防処置」に該当するものであるとの立場を取り、雇用主に医療保険の対象とすることを命じている。中絶に反対するカトリック教会やその他の宗教団体はこれに猛反対して訴訟を起こし、最高裁は2014年、「カトリック信者である雇用主に多大な負担となっている」との判断を示した。
クリーン・パワー計画
議会の反発で温室効果ガス規制が実現しない状況を受け、オバマ大統領は環境保護局(EPA)に火力発電所に対する排出規制と再生可能エネルギーの導入に取り組む企業に対する優遇措置を含んだ「クリーンパワープラン」の策定を指示、昨年8月に大統領令として同規則を発令した。これに対し、27州の電力会社が訴訟を起こしている。
ネット中立性 ホワイトハウスの指示とコンテンツ・プロバイダー各社からの要請を受け、連邦通信委員会(FCC)は昨年、すべてのインターネットトラフィックを平等に扱うことを目的とした「オープンインターネット規則」を導入。ブロードバンドが再分類され、電話回線に適用される厳格な規制が適用されることとなった。通信各社は行政権の乱用だとして、新規則の差し止めを求めオバマ政権を提訴した。
オバマケアの修正
オバマケアが企業に義務付けた従業員の医療保険への加入について、政権は同法の可決後、従業員数の多い企業については延期することを決めた。同法に対する政治的な反発をかわすことが目的だった。しかし、下院はこの措置に加え、政権がオバマケア関連の別の予算項目から保険会社への補助金を拠出しているとして提訴している。
議会休会中任命
連邦最高裁は2014 年、オバマ大統領による米労働関係評議会(NLRB)委員の「休会中任命」は、大統領権限を越えていたとの判決を下した。任命を阻止することを目的とした形式的な審議であったとはいえ、上院は休会中ではなかったとの判断を示した。
リビア空爆
空爆開始から60日後、オバマ大統領は議会からの事前承認を得ずに実施したリビアへの空爆について、戦争権限法に基づき議会の承認を必要とする「敵対行為」ではなかったと説明した。
ボウ・バーグダル軍曹
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンに拘束されていた米陸軍のボウ・バーグダル軍曹が2014年に解放された(その後、脱走の疑惑で陸軍が訴追)。オバマ大統領はこのとき、軍曹の解放と引き換えにキューバ・グアンタナモ米軍基地に収容していたタリバンのテロ容疑者5人を解放したが、同基地の収容者の解放については30日以上前に議会に通知することが2013年制定の法律で定められており、大統領は同法に違反したと批判されている。