それが台湾だ。この中国の隣にある島は投資誘致を推進しており、長年の政治的不信感により、かつては閉め出していた中国本土からの資金流入を2010年以降、容認し始めている。台湾人は、中国も自分たちと同じくらい、投資解禁を切望しているはずだと見立てたのだ。北京政府は、台湾は自国領土の一部であり、ほぼ70年にわたる分離を経て、平和統一を目指すべきだとの立場を取っている。中国政府はまた、台湾向けに中国の輸入関税を優遇したり、中国から台湾への多くの観光客を送り込むなど、気前の良さで台湾の気をひこうとする申し出も行われている、両者は為替連動について議論をしたことすらあるのだ。
ところが台湾の金融監督管理委員会の主任委員、曽銘宗(Tseng Ming-chung)は、中国で適格国内機関投資家の許可を受けたファンドは10月現在でわずか2億6,700万ドルに留まっていると語っている。この種の投資枠は通常5億ドルであり、曽は委員会としては、中国の銀行、保険会社、資産管理会社などからの申請はほとんどすべて承認しているとしている。問題は中国側の規制にあると曽は語る。「鍵は向こう側が握っている。中国本土の投資家が、なかなか自由に適格国内機関投資家の許可を得られていないのだ」
国際化が急激に進んでいる台湾の株式市場では、オフショア投資がすでに37%を占めており、今年の投資額は過去最大となっている。10年前の投資額1,089億ドルに対し、今年は10月現在で1,949億ドルであり、堅調に拡大していることがわかる。
これに対し中国人民大学金融学部の副学部長、赵锡军(Zhao Xijun)は、中国の資金が尻込みをしているのは、中国と台湾の政府機関が事務手続きをきちんと調整していないからではないかと指摘している。中国の投資家の中には、投資家向けの財務報告など、台湾で義務づけられている開示基準を懸念する向きもあるのではないかというのだ。「こうした点について、双方の調整が必要だ」と赵は語っている。
中国のファンドマネージャーが、台湾株式の占拠率は世界的に見ればごくわずかであることに気がつき、欧州や米国の先進市場を選好しているのではないか、と分析するのは、台北のCathay Securitiesのグローバルエクイティ部門長、ソロモン・チャンだ。中国で海外ポートフォリオ投資が解禁された2008年に損失が発生したため、中国国内で資金調達が難しくなっていることから、より安全な市場が選ばれているのではないかというのだ。
中国の投資家はさらに、台湾の5月の選挙で新総統が誕生すれば、損失を被ることになるのではないかと危惧している。総統選挙戦でリードしている蔡英文は、貿易・投資面での初めての協定を実現させてきた現在の対中対話のあり方を見直す意向を表明している。関係が悪化することとなれば、中国政府も台湾への投資に歯止めをかけるだろう。いずれにせよマーケットは慎重になる。世界中の投資家が、両者関係の長期的な冷却を踏まえたポジションをとることになるからだ。台北のYuanta-Polaris Research Instituteの梁國源(Liang Kuo-yuan)会長は、「蔡英文が勝つこととなれば、マーケットで相当にうまく立ち回ることが求められるようになる」と語っている。