キューバで始まったAirbnbブーム 米国との国交正常化に期待

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大抵のキューバ人がそうであるように、アレンハデロ・ポルティレスは人生の大半、政府が管理する仕事に携わってきた。獣医として、政府所有の農場で勤務した後、政府が運営するフードサービス事業の管理者となった。

数年前にオールド・ハバナでフードサービス事業の運営を引き継ぐよう求められた彼は、公務員を退職してキューバで最近ブームの起業家になった。

現在、ポルティレスはハバナの中心でB&Bを経営し、Airbnbを介して宿泊客を泊めている。植民地時代にはスペインの船長が所有していたその建物は築200年の古い屋敷で、室内にはフレスコ画も残されている。空調を完備した美しい客室を2室あり、天井は7.5メートル以上と高く、客室への入口はパティオ側の開放的な廊下に面している。

6月にこの部屋に宿泊した筆者は、Airbnbを介して滞在した初のゲストとなった。

Airbnbが鳴り物入りでキューバでサービスを開始したのは、2015年4月1日。それまでも、キューバには宿泊先として部屋を貸し出すビジネスモデルが存在し、Airbnbにとっては様々な点でうってつけだった。キューバを訪れる旅行者は年間200万人以上。米国との関係が正常化に向かえば、かつてないほどの大量の旅行者が押し寄せることが予想される。

2014年に米国からキューバを訪れた旅行者はたった10万人だったが、調査によれば今年はその数を30%以上上回る勢いだ。キューバではそういった大量の観光客を迎えるためのインフラが不十分で、ハイシーズンには既存のホテルの予約は満室だ。そこで、この宿提供ビジネスが一役買うというわけだ。

Airbnbの共同創業者でCTOのネイサン・ブレチャージクよると、「現状ではキューバは大した収入源にはなっていない」とのことだ。しかし、同社はキューバでのサービス開始を大々的に宣伝している。ニューヨーク・タイムズに全面広告を打ち、ネット上も含め様々なところで広告を目にする。この広告戦略にはいくつかの理由がある。

「ほとんどの人がキューバを訪れる人の数が大幅に増えると予想しています。そうなれば、Airbnbはより多くの旅行者に宿泊先を提供することで、キューバの力になることができます」とブレチャージクは語る。このことは、アメリカの各地で「住宅不足に拍車をかけている」と非難されるAirbnbにとって、有利な反論材料になるはずだ。

しかし、もっと重要なことは、キューバの市場がAirbnbの本来の目的に合致していることだ。「今キューバにAirbnbを展開する主な理由は、違う国にいる個人がつながることで、友好関係が築けることです」とブレチャージクは続けた。

今年4月、Airbnbの宿泊先リストにキューバが加わった時点ではキューバ国内の宿数は1000件だったが、現在は2,600件以上だ。登録された部屋はキューバ国内の40の街にまたがり、そのおよそ半数は首都ハバナにある。

Airbnbによると、同社を介して宿泊客を得た宿のオーナーは、1回の予約で平均250ドル(約3万円)を稼ぎ、年間では平均900ドル(約10万9,000円)を得ているとしている。キューバ人の平均月収は約20ドル(約2,400円)であることを考えると、これは相当な額と言える。

キューバではほとんどの国民がインターネットにアクセスできず、オンラインでの支払いは出来ない。部屋の空き状況は代行業者が管理し、その業者がAirbnbのサイトへの情報のアップや顧客との連絡、予約の確定業務などを請け負っている。筆者はAirbnbを通じクレジットカードで支払いをし、部屋に宿泊した。

Airbnbが紹介するハバナの宿を10件以上訪れた結果、古い家を美しく修復した宿泊施設からシンプルで清潔なアパートまで、幅広い選択肢があることがわかった。部屋を貸し出すビジネスはまだ小規模だが、投資チャンスがあると見る、抜け目ない起業家もいる。

Airbnbのネイサン・ブレチャージクのキューバ訪問にあたって実施された宿泊施設の見学ツアーでは、外国人が部屋のオーナーであるケースも報告された。スペイン人とイタリア人の2人はハバナに移り住み、歴史的な家を買って修復し、サイトに掲載した。(厳密には、キューバでは外国人の不動産所有は認められていないが、キューバ人の配偶者であれば認められる)

彼らはAirbnbがキューバに進出する前に家を購入した。今後、この動きはますます加速していくかもしれない。

文=ミゲル・ヘルフト(Forbes)/ 編集=上田裕資

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