近年、ボタン一つでマンションの部屋を借りたり、タクシーを呼んだり、食事が注文できるサービスが台頭している。オンデマンド・エコノミーが普及する中、Shift Technologiesは消費者が同様なシンプルさで車を売買することを可能にしようとしている。
サンフランシスコを拠点とするShiftは、テクノロジーを駆使して中古車売買をシンプルにしようと試みる会社の一つだ。同社は9月1日、ゴールドマン・サックス・インベストメント・パートナーが主催するラウンドで5,000万ドル(約60億円)を調達した。同社の評価額は明らかにされていないが、創業から2年足らずで約7,500万ドル(約90億円)を調達したことになる。
「ゴールドマンは世界でトップの金融機関だ」とShiftの共同創業者でCEOのジョージ・アリソンは話す。ゴールドマンは今回の出資で、Shiftに取締役を派遣している。アリソンはゴールドマンを選んだ理由について「マーケットプレイスと金融サービスの両方に造詣が深いからだ」と話している。
今回の資金調達の背景には、ウェブとスマホアプリで中古車の売買を手掛けるライバルらが増資を行い、存在感を増してきたことが挙げられる。5月には、カリフォルニア州ロスアルトスのBeepiが3億ドル(約360億円)以上の資金調達が間近だと発表した。また、6月にはニューヨークのVroomが5,400万ドル(約6億4,800万円)を調達している。
これらの企業は皆、店舗販売のコストを省くことにより、売り手の儲けを増やし、買い手のコストを下げることを約束しているが、細かな点では各社に違いが見られる。BeepiとVroomは、買い手に車両を引き渡す前に、一旦自社で所有権を取得している。また、両社とも試乗の機会は提供しておらず、サイトに記載された情報を信頼して欲しいとしている。
Googleのプロダクトマネジャー出身のアリソンは「これらの2社は昔ながらの中古車ディーラーの販売手法をオンライン化したに過ぎない」と話している。Shiftのビジネスモデルでは、車をサイトで委託販売する前に、車両の検査とチューンアップを行っている。
また、同社は、売り手が受け取る最低金額を保証し、販売金額がこの額を上回った場合、差額をShiftと売り手の間で折半する。同社によると、売り手は他の中古車ディーラーにトレードインする場合に比べて、平均で1,500ドルほど高く売れるという。
Shiftはテスト運転サービスも提供し、納車の際は“car enthusiasts(車に熱心な人)”と呼ばれる専門スタッフがオンデマンドで対応し、45分以内に車を手元に届けてくれる。
「我々は、Craigslist(掲示板サービス)の利用体験に革新をもたらしたいんだ」とアリソンは話す。Craigslist上では、P2Pでの取引が大量に行われているが、その大部分は管理が行き届いていない。「ネットを通じた車の売買は既に行われているが、我々は信頼を提供することで、買い手が自信をもって車を購入できるようにしたい」
アリソンによると中古車流通の市場規模は、年間7,500億ドル(約90兆円)で、その内2,500億ドル(約30兆円)は個人間の取引きだという。Shiftは現在ロサンゼルスとベイエリアでサービスを提供しているが、2016年の終わりまでには全米20都市に拡大するとしている。
DMV(陸運局)の統計によれば、Shiftは7月にサンフランシスコで152台の中古車売買を仲介し、市内で二番目に多くの中古車を販売した業者となっている。アリソンは同社の売上高については明らかにしていない。
アリソンによると「現在のところ車両一台当たりの収支はトントンだが、マーケットプレイスから利益を得ることが目的ではない」とのこと。Shiftの目標は車のオーナーにエンジンオイルの交換や、自動車ローンの仲介などのサービスを提供し、収益を得ることだという。
アリソンは高校生だった1990年代に旧ソビエト連邦からアメリカに移住し、Shiftを創業する前にも起業を経験している連続起業家だ。彼は以前にTaxi Magic(現Curb)という会社を創業した。これは、スマホを使ったタクシー配車サービスで、Uberに先駆けるものだったが、当時はライドシェアリング・アプリは、時代を先取りし過ぎていたとアリソンは言う。
また、後々Uberに出資をすることになるBill Gurleyからの提案を断るなど多くの失敗を犯したと反省する。
「オンラインの中古車仲介は、Taxi Magic時代の手法を思い起こさせる」と語るアリソンは、ライバル企業のビジネスモデルは、模倣されやすいと指摘する。
「私はこれまでの経験から多くのことを学び、Lyft、Uber、Airbnbが作り上げたマーケットプレイスのモデルを尊敬している」
今回の5,000万ドルの調達ラウンドには、ゴールドマン・サックスの他に、DCMや、既存株主であるDFJ VentureとHighland Capitalも参加している。