より長く生き、より長く働き、健康寿命も伸ばす
高齢化社会について語る際、日本は特に注目を集めがちです。確かに、日本の合計特殊出生率は1.2で、現在の人口を増やすどころか維持することもできない状況にあります。しかし、これは日本だけの問題ではありません。中国や韓国、台湾、シンガポールの出生率は日本よりもさらに低く、EU全体の平均も約1.4で減少傾向にあります。出生率の減少は1960年代以降、ほぼ世界的な現象となっているのです。
出生率の改善はもちろん重要な課題です。しかし、これまで政府がどれだけ多くの施策を講じても、その効果は限定的でした。このように高齢化対策が進展しない背景には、「人口を増やすこと」にばかり注目し、「今いる人々の寿命や生産性を延ばすこと」に十分取り組んでこなかったことが、一因としてあるのではないかと私は考えています。一定の年齢で退職するという前提についても、見直す時期に来ているのかもしれません。人々がより長く、健康で生産的に生きられるよう、健康寿命を延ばす取り組みにもっと力を注ぐべきではないでしょうか。
特に日本は、「健康と長寿」においてさまざまな面で世界トップクラスです。日本は世界で最も長寿の国で、女性の平均寿命は86.8歳、男性は80.5歳に達します。さらに、高齢期における健康維持においても優れており、65歳時点での健康余命は16.7年と、世界最高水準を誇ります。
また、高齢化社会に対応するため、日本では「シルバーマーケット」向けのさまざまな技術やソリューションが開発されています。これらを世界中に輸出することも有望なビジネスチャンスの1つですが、私が注目しているのはそれだけではありません。高齢化への対応は、もっと理想的で夢のある未来につながる可能性を秘めていると考えています。具体的には、予防医療や遺伝子治療による老化の抑制や克服です。医療のデジタル化やAIの導入が進む今、生物学的年齢を数十年若返らせる技術の実現がますます現実味を帯びています。また、日本は長寿や幹細胞研究の分野で世界をリードしており、ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授にちなんで名付けられた「山中因子」が特に注目されています。こうした分野における日本の強みを活用し、100歳が「若々しく元気な年齢」となる未来を実現しようとする起業家にぜひお会いしたいと考えています。