米ニューヨークを拠点とするAIスタートアップ、Runway(ランウェイ)が3月末にリリースした動画生成AIの最新バージョン「Gen-4」は、映画やメディアの未来への興奮を巻き起こすと同時に、さまざまな疑問を投げかけている。
同社の評価額は、ジェネラル・アトランティックが主導し、エヌビディアやソフトバンクらが参加した3億800万ドル(約540億円)の資金調達を経て30億ドル(約4300億円)に上昇した。映画業界におけるAIの普及は、もはや止められないように思える。
映画を含むあらゆる創造的メディアは、今まさに技術的な分岐点に立っている。AIがストーリーテリングのあらゆる側面を再構築しはじめた中で、我々はその可能性とマイナス面の検証を求められている。
主要な映画制作会社は、急速にAIツールを導入している。2018年のアカデミー賞を受賞した映画『ナチュラルウーマン』で高く評価されたチリの映像制作会社のFabulaは、Runwayと提携し、制作パイプライン全体にAIを組み込むと発表した。米国の映画大手ライオンズゲートも、AIを活用した映画制作を模索する目的でRunwayと契約を結んだ。ハーモニー・コリンのような実験的な作風で知られる映画監督も、昨年のヴェネツィア国際映画祭でAIを用いた作品を発表した。
動画生成AIの応用はすでに広範に及んでおり、制作段階のドラマのプリビズ(デモ動画)の作成から、大手スポーツブランドの広告制作にまで利用されている。しかしこうした派手な活用事例の背後には、より根本的な疑問が存在する。それは、生成AIで作ったコンテンツが、果たして本当に意味のある物語を生み出せるのか、というものだ。
派手な視覚効果と空虚な内容
Runwayの動画生成AI「Gen-4」は、キャラクターの一貫性やシーンの整合性、視覚的な忠実性などといった複数の領域で大きく前進している。同社が公開したデモ動画では、2人のキャラクターが歩いたり、走ったり、牛を撫でたり、マッチを擦ったりといった異なる場面が、説得力のあるタッチで描かれている。
しかし、こうした技術面の進歩は本質的な課題に対処していない。AIは個々の瞬間を生成する能力には優れているが、整合性のある持続的なストーリーを生み出すことには苦戦している。ニューヨークの街にキリンやライオンが徘徊する見ごたえのある映像を作ることはできても、大都市が突然、動物園になった理由を観客に説明するのは難しい。
AIで生成したビデオは初期のCG(コンピューターグラフィックス)と同様に、視覚的なギミックを優先し、深いメッセージ性を欠くという失敗を繰り返す危険がある。AIは創作や映画制作のハードルを下げるかもしれないが、中身のない二番煎じの作品を大量に生み出すだけかもしれない。
生成AI動画の「欠点」
ここ最近の研究で、Runwayを含む各社の動画生成AIに共通する重大な欠点も明らかになっている。そのひとつは「一貫性の欠如」という問題だ。エヌビディアやスタンフォード大学、UCサンディエゴの研究者らが参加した最近の研究プロジェクトでは、カートゥーンアニメ『トムとジェリー』の1940年代に制作された約7時間分の映像で訓練したAIで、新たに複数の60秒間のアニメを生成するという実験が行われた。